"Dragon's Den"…英国の起業風土と投資姿勢を垣間見ることができる番組

 10年ほど前でしょうか。ちょうど私が大学院の博士後期課程在学中で、学生起業をした自身の事業が軌道に乗り始めてしばらくした頃でした。テレビでマネーの虎という番組をやっていました。

 私は企画のテーマに興味をもち、時間が合えば見ていましたが、残念ながらこの番組は2〜3年程度で打ち切りになってしまいました。

 しかしこの番組が英国で受け継がれていたのです。そのタイトルが"Dragon's Den"。「マネーの虎」ではないですが「龍の巣穴」という意味ですね。

 
 (あまり関係ないのですがオックスフォードの街並みです)

 先日までの英国出張中、夜にホテルに戻ってふとテレビをつけると、妙にビジネス調の英語が気になり、そのまま聞いていました。すると「これ、『マネーの虎』やん!」と発見したわけです。しかし形式、テーマは全く同じでも、日本でやっていた「マネーの虎」とはどこか違います日本の番組よりも格段に面白かったのです。見ているうちにその理由がわかってきました。

 番組の進行は日本と同じ、「学生から主婦、高齢者までのアントレプレナーが5人の”Dragon”と呼ばれる投資家の前でプレゼンを行い、出資を募る」というものです。日本では打ち切りになったのに、なぜ英国では今でも続いている(人気が衰えない)のでしょうか。そのことを考えながら見ていました。

 確かに個人によるベンチャービジネスのスタートアップ支援が盛んであるという欧米の風土も関係しているのかもしれませんが、それ以上に番組が続く理由は明白でした。「(日本の番組の出演者の方々には失礼ですが)投資家たる”Dragon”の質が極めて高い」という表現がいいでしょうか。質問の切り口が的確です。

 なぜそのビジネスが成功すると思うのか、今までにどれだけ販売したか、なぜ大手に売り込んでも上手くいかなかったとあなたは思うか、市場が大きくなくビジネスにはならないのではないか、ということや、その他にも数字にこだわった質問が相次ぎます。

 結果として出資の申し出のほとんどが拒否されるのですが、その拒否する際の理由も、「私はこう考える、またはそれは私のセンスとこういう点で異なる」ということを明確に述べたうえで、最後の決まり文句”So, I’m out”と言って、一人ずつ降りていきます。それらは一方的な非難でも質問でもなく、大物投資家達の意見や考えも交えながら、発表者とのコミュニケーションが続きます。

 日本の番組のほうはどうだったでしょうか。出資者たる虎同士の(個人的な利害による?)対立、出資者によるビジネスとは無関係な質問と非難などが記憶に残っています。英国のこの番組にはそのような要素は全くありません。

 また、もし出資が受けられなくても、出演が広告目的だろうとか言うこともなく、さらに頭ごなしにそのプランを潰すわけでもなく、応援しようという姿勢が見て取れました。

 何より出資の成功云々ではなく、”Dragon”と呼ばれる5名の投資家による、論理だった冷静かつ客観的で、さらにビジネスのポイントを突いた考えを聞くことこそ、アントレプレナーにとっては大きな収穫だと思います。

 日本の過去の番組にはそこまでのものがなかったのですが、この番組の内容はとても起業教育に適していると感じました。個人的にはどこの局でもよいので、この番組を流してほしいなぁと思います(この内容であれば、日本語字幕、または吹き替えを入れれば、日本でもそれなりの視聴率を取れると思います)。