I just got it! − セブン&アイHDのニッセンHDの買収意図はバーニーズ価値を活かした戦略的統合オムニチャネル化!

 ニッセンホールディングスという会社があります。本社が京都にあり、当地福井にも大きなロジスティックセンターがあることから、京都生まれで今福井に住んでいる私としては、親近感を持っていました。

 同社は2012年にシャディをUCC-HDから買い取り、完全子会社にしました。同時にUCC-HDに対し1株360円で第三者割当増資(発行および自己株式の処分、およそ45億円)を行い、UCC-HDに持分法が適用される20%の同社株式をもつことで、同社はUCC-HDを親会社等とする連結対象会社になりました。

 このときに同社がシャディを買収したほうの理由は明確です。通販を中心とした非対面取引主体の同社と、対面取引主体のシャディで相乗効果を生むという目的があったのでしょう。しかしUCC-HDが同社の株式を持つことは、投資以外の目的がいまひとつ思い浮かびませんでした。そして1年半が過ぎ、一昨日の12月2日に大きなニュースが飛び出しました。

 今度はセブンイレブンで有名なセブン&アイHDが同社に対し、1株410円でTOB(株式の公開買付)をかけました。UCC-HDは応じるということで、私の中の先のウヤムヤはすっきりです(UCC-HDは1年半で投資額の13.9%の有価証券投資益をあげたわけですから、UCC-HDにとってもいいことです)。当然のことながら市場で317円で取引されていた同社株は、昨日3日は場中は値がつかずのストップ高397円で終えています。

 注目したのは今日です。TOB価格の410円に寄せるのか、それとも今後の同社の業績の急拡大を見越してさらに上を行くのかという点です。結果は、420円で始値をつけ、前場は一時ストップ高の477円まで買われました。このままいくと本日の終値も410円より上で終えそうです。

 セブン&アイHDの意図はおよそはっきりしています。商材の多様化と流通チャンネルの強化です。ニッセンにとっても、商品をネットで注文しコンビニで受け取る利便性により独占的市場化を目論む「オムニチャネル」戦略が可能になります。セブン&アイHDとニッセンHDのタッグは確かに相当な効果を生み出しそうです。同社社長の「カタログ、ウェブをセブンの店舗網と融合すれば大化けするビジネスができる」というコメントは確かにその通りでしょう。

 このタッグの市場内外におけるインパクトは想定外だったことも含め、相当なものだと思うのですが、私は2日当初は、セブン&アイHDにも大きな寄与をするでしょうが、ニッセンHDのほうがメリットが大きいと感じていました。

 しかしセブン&アイHDの本日4日のIRでセブン&アイHDの意図もくっきりと明確になりました。あの高級デパート「バーニーズニューヨーク」を日本で展開するバーニーズジャパンへの、セブン&アイHDが49.9%の出資をするとのこと、どうやらこの出資も一連の戦略の一つだったようです。「バーニーズニューヨーク」は一部のニューヨーカーの聖地(これは言い過ぎかな)であり、私も大好きなプライベートブランドです。昔はよく新宿バーニーズ目当てに行きました。

 これでセブン&アイHDの戦略がすっきりしました。といいますか、私的には双方とも莫大なイーブンイーブンの利益を生み出すスキームということが、バーニーズの一件で綺麗に整理できました。セブン&アイHDは商品の増加や流通チャンネルを拡充するだけでなく、ブランドを伴った大幅な投資をしますという決意であり、ニッセンHDへの大きな期待もうかがうことができます。

 あまり市場株価のことをいうのは俗っぽいことかもしれませんが、ここ最近のTOBにしては珍しくTOB価格を大きく上回る効果を生み出しそうなスキームだと感じました。またそこはセブン&アイHDも賢いですね。一般投資家は410円より価値があると思えば、つまり市場で410円以上の価値がつくと思えば、410円のTOBに応じてくれませんので、それを見越して手を打っているようです。「もしTOBへの応募が50%に満たなかった場合は第三者割当増資により50%まで持ち分を引き上げる」としています。友好的な公開買い付けだからできることですが、このことからセブン&アイHDも同社も既に410円以上の価値が生まれるということを認識し、または投資家がそれ以上の価値を認める可能性が高いと読んでいたことがわかります。

 もっとも第三者割当増資が行われるとすれば、株式の希薄化を懸念する投資家もいます。今回の場合は借入金の返済に充当とされているので、企業財務の健全化という点も含んでどう判断するかになります。もっとも出資と融資では、本来そこに優劣が存在するかというと、企業にとっては「理論上は」同じです。金融研究では有名な「モジリアニ・ミラーの定理(Modigliani-Miller theorem)」ですね。

 モジリアニとミラーは法人税を無視すれば資本構成や配当政策によって企業価値は変化しない」と述べました。つまり出資と融資の資金調達の差は、税を無視すれば存在しないということを言っています。もちろんこの考えは現実の経済社会とは異なる完全市場を前提としていますので、実際には違うのですが…。

 起業直後の企業にとっては、返済義務の有無、返済期間、創業後の利益が出にくい期間は配当を抑えることができることなどを考えると、出資のほうがメリットが高いと言えます。上場企業でも資本調達(出資)のほうが、財務の健全化、格付けの上昇などのメリットが存在します。

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 買収というと、日本ではいまでもどちらかというと良いイメージがわきづらいのですが、この例のように関係者すべてが互いに相当な企業価値を高める可能性をもつスキームは、経営学の教科書的にも良いものだと思います。

 個人的には、お気に入りの企業同士がくっついたり、実際の利益を出したりしたことだけで満足です(^−^)セブンイレブンのコーヒーも美味しいし。2009年にようやく福井にセブンイレブンがやってきて、まさに今設立ラッシュのようです。もうすぐすると大学の横にもできます!