「ペニーオークション」の次は「スクラッチオークション」?

 一昨日、突然、くしゃみが20回以上連続で出ました。どうやらそこから今年の花粉症がはじまったみたいです。今年はここまで全く症状が出なかったので、安心していたのですが、住む場所が変わってもやはり花粉は飛んでいる模様です。この恐ろしく激しい連続くしゃみのせいで、喉までやられてしまいました(^^;

 さてタイムマシン商法のように、日本に次々と新しい形態のビジネスモデルが輸入されています。先日のブログ「消費者に誤解を与えるビジネスの乱立について!(警鐘)」ペニーオークションに関する問題点として、消費者の自己責任能力を高める必要があると述べました。実際にペニーオークション(penny auction)が日本で流行りだしたのは2009年頃(スタートは2005年のドイツといわれています)で、昨年あたりからその問題点やトラブルが指摘されるようになっています。

 そしてその問題が解決しないまま、ここ直近ではクラッチオークションが開設されようとしています。(ちなみに、このビジネスをはじめたければ(つまり運営者になりたければ)、初期投資金額を支払い、ペニーオークションと同様にシステムをサーバーにインストールするだけです。ペニーオークション同様に、個人でも創業が可能です。)

 その内容は、ペニーオークションを少し発展させたもの(仕組みは反対)で、入札するたびに価格が下がるというものです。これはいわゆるダッチオークション(Dutch Auction :「スクラッチオークション」という言葉は日本独特か、もしくはグローバルでは一般用語にはなっていない模様)と呼ばれる形式です。

 たとえば市場価格100,000円のパソコンを運営者がスタートは100,000円で出品します。しかし購入希望者には、現在の価格が隠されていてわかりません。1回の入札手数料(スクラッチ価格)が2000円、購入希望者が1入札するたびに商品の価格が1000円下がるとします。購入希望者は入札したのち、数秒間だけは現在の価格がわかります(だからスクラッチなのでしょう…)。購入希望者はその時点でその商品を購入するか否かを判断します。まだ高いようならば、もう少し値段が下がるのを待つというわけです。

 仮に40入札目の人が、この商品にはじめて入札を行うとします。すると商品価格は40回×1000円だけ下がっていて、その時点で商品価格は60000円です。「市場価格100000円のパソコンが60000円で買えるなら安い。買いだ!」とこの購入希望者が判断したら、その時点で売買が成立、このオークションは終了です。

 この商品に関しては、運営者は40回分の入札手数料40回×2000円=80000円と購入希望者が支払う60000円の代金を受け取ります。つまりこの運営者は、市場価格100000円のものを売るのに、140000円を手にします。仮に市場価格100000円で仕入れをしていたとしても、儲けが40000円でます。

 晴れて落札ができた購入希望者は、市場価格100000円のパソコンが、市場価格100000円−(プライスダウン分40回×1000円)+入札手数料2000円=62000円で購入できたことになります。市場価格に比べて、38000円の得になります。

 これまたペニーオークションのような、一見、素晴らしい仕組みです。しかしモノの取引では、損得のつじつまが合わねばいけません(ゼロサムゲーム)。ではここで運営者の利益40000円と商品落札者が得した分の38000円の合計78000円を誰が負担しているのでしょうか。これは1〜39回目まで入札をしたけれども、まだ価格が高いと感じて購入を見送ってしまった他の購入希望者です。彼らが入札の度に2000円ずつ支払っています。ちょうど39回×2000円=78000円ですね。

 ペニーオークションでは運営者は損失が生じるリスクが伴いました。しかしこの仕組みは運営者にとっては、とてもやさしいシステムで、逆に購入希望者にとっては非常に厳しい心理戦を強いられ、かつ損得の期待値も低いものです。(まだペニーオークションは、入札が少なければ運営者が損する分、購入希望者全体としての期待値はプラスになる可能性もありました。)

 ペニーオークション同様に、ビジネスを規制するかどうかという点では、規制する根拠が現状はありません。あえて言うならば、ギャンブル性の有無で議論することになるでしょう。ただ、このようなビジネスモデルが良い悪いと議論する前に、同ビジネスに対する耐性は、やはり消費者教育として必要ではないかと思います(個々の具体的なビジネスモデルを学ぶのではなく、基本的なリスクとリターンの教育です)。

 高度IT社会がビジネスに与える影響は極めて大きく、現代社会の変化は劇的といえます。少なくともこのようなビジネスの流れだけは、現代社会で生きていくための力」として知っておく必要がありますね。

 例えが適切かどうか微妙ですが、幕末の黒船の来航により日本が西欧諸国から虐げられそうになった(注)ように、これらのビジネスモデルを知る人が、リスクとリターンをきっちり認識できていない人から搾取する、そんな事態にならないことを祈ります。

 もっともこのビジネスモデルが、日本で広がるかどうかは、現状ではわかりません。

(注)日露戦争の勝利により、日本はいち早く西欧の植民地支配から免れたわけです。危ないところでした。