ゼロスポーツ社の問題は、中小企業、ベンチャー企業のファイナンス問題の縮図でもあります!

 昨日夕方、電気自動車(EV)を製造するベンチャー「ゼロスポーツが潰れちゃったらしいよ(><)」という話題が、飛び込んできました。同社は昨年、日本郵便の集配車1000台分(およそ35億円)を受注したことから、数多くあるEVベンチャーの中でも一歩抜け出したかな、という印象を持っていただけに(この受注で売り上げは一気に数倍?という成長の予定だっただけに)、最初は半信半疑でした。しかし夜になるとインターネットの各ニュースでも記事がでてきて、メーリングリストでも情報をいただき、「さっきの情報、ホンマやん!」と驚くとともに、その経緯が明らかになってきました。

 各ニュースを総括すると、どうやらこの日本郵便からの受注が、経営を追い込んだ要因になったようです。各ニュースやネットなどで注目されているポイントは、
① 昨年の開発途中に日本郵便と集配車のベース車両の変更、およびそれにかかる納期の延長の合意がなされていた(ゼロスポーツ側の主張)
② 1月の最初の納期が守られなかったため、日本郵便側から契約解除の通知と違約金7億円の請求の通告があった

という件です。①が事実であったとすれば、確かにゼロスポーツに同情してしまいます。しかしビジネスでは、この①、②の事象だけをみれば、日本郵政側の行動(主張)を肯定すべきということになります。

 いくらベンチャーとはいえ、①の段階で合意をした場合、事前に契約で納期を定めていたならば、納期遅れの違約金が発生するリスクを認識していなければなりません。通常のビジネスでは、口頭での合意は極めて危険であり、最初の契約書に加え、後発事象であるその合意を「覚書」その他、証拠という形で残さねばなりません。

 これは日本独特というものでもないのでしょうが、相手を思いやる、もしくは思いやってくれるだろう、という考えは、良い意味、悪い意味、双方に解釈できます。しかし、ことビジネスにおいては、経営者、担当者としての相手への感情と、プリンシパル(株主)に対するエージェント(代理人)としての会社の経営とは、利害が一致しないことが多々あります。今回の件は、このような問題も内在しているのかもしれません。

 相応の規模の企業では、法務担当者が対処するでしょうが、中小の規模では、どうしても経営者周辺で対応しなければいけません。大企業と中小企業の差の問題もありそうです。

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 ちょっと脱線しますが、大企業と中小企業といえば、「大学は大企業のような組織」と思われているようです。法務など多くの部分で専門の方がいらっしゃいますので、確かにそうなのかもしれません。しかし多くの点で、大企業でも中小企業でもない部分が結構存在すると思います。

 社会において民間企業で(経営者として)働いてきた経験から、大学で(教員、研究者として)働く場合、(良い、悪いは別にして)ギャップを感じることが結構あります。特に大学は授業料収入、運営交付金以外にも、寄附金や競争的資金など、いわゆるサービスの対価として得るビジネスの売り上げとは異なる性格のお金も動きます。そのせいか、企業経営から大学勤務に変わって3年程度の私は、大学で仕事(授業、研究、産学官連携業務)をするにあたり、未だビジネスとして当たり前だった感覚との違いを感じることがあります

 もっとも研究成果の創出という部分では、ビジネス感覚で生み出せないものが数多くあります。確かに研究とビジネスとは。成果の対価について短期では同一のものとして議論してはいけないものです。ただし(かなりの期間ですが)長期では、研究においてもビジネスと同一で成果の帳尻合わせが必要ですが…。ここもミクロ経済学でいう、長期と短期の違いと実は同じなのです。

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 話をもとに戻します。このゼロスポーツの話題については、もう一つ問題があります。それはベンチャービジネスファイナンスの問題です。この領域は大学院生時代からの私の専門です。急成長を試みる中小企業(つまり日本では「ベンチャー企業」と呼ばれる部類)は、私の経験上からも、どうしても無理なファイナンスに陥りがちです。経営学で説明するとマクミランギャップと呼ばれる、世界恐慌時のイギリスの話、マクミラン委員会報告書の内容で説明がつきます。

 簡単に書くと、中小企業は大企業ほどの信用力に乏しく、それゆえ市場から資本調達(株式などによる調達)ができない。しかし成長中の企業の資金ニーズはその企業が借り入れを行うことができる担保を超えており、銀行借り入れもできない。その結果、急成長している中小企業ほど、実は資金繰りに困るというものです。

 同社は郵便局からの受注後に、その生産のための資金を金融機関から「(資本ではなく)負債として」調達していたとのことです。この点については、日本郵政からの受注を背景に借り入れたといわれています。要は同社が保有する資産の担保枠を超えてしまっているわけです。その結果、日本郵政から契約解除の通知により、日本郵政からの違約金請求に加え、銀行からも融資の引き上げを迫られたとのことです。

 という事実だけを書くと、銀行の態度に関しても同社に同情をしてしまいそうですが、こちらもビジネスとしては正しいものです。銀行は本来、リスクマネーを提供できない金融機関です。その理由は、預金者から元本を保証すべきお金を集め企業に貸し付けているからです。つまりそのお金の性格上からリスクがとれない、かつ低利に見合ったリスクしかとることしかできない、という2つの理由が挙げられます。

 ですので、本来はEVを生産するための設備投資資金などは、長期であっても負債調達よりは、返済義務のない資本調達をすべきというのが、経営学の教科書的見解です。

 となると先ほどのマクミランギャップの問題の問題が出てきます。中小企業、ベンチャー企業は大型の設備投資をするビジネスには手を出すなということになってしまいます。しかしここにこそ政府の役割が存在します。民間の金融機関ではリスクを取ることが不可能な場合、また市場からの資金調達を行うには十分な信用を得ていない成長途上の中小企業には、政府系金融機関、政府系ファンドによるリスクマネー供給が不可欠です。1年ほど前、私が伝え聞いたある情報では同社も政府系のファンドから資金を得る動きがあったようですが…(これは公開してもいいのかな?)。

 米国ではもう一つのリスクマネー供給手段が整っています。こちらも教科書的な結論ですが、それはエンジェルといわれる人々です。簡単にいうと、リスクマネーを供給できる個人の投資家です。残念ながら日本とは規模が違う大きさです。これらは米国における金融投資教育の成果でもあるといわれます。一度、起業し成功をおさめた人々が、エンジェルになることが多いようです。となると起業教育も重要な位置を占めてきます

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 同社はこのような経緯から志半ばとなってしまい、本当に悔しいと思います。しかしこのEV開発の夢を引き継ぐベンチャーがさっそく名乗りを挙げているようです。同社の従業員を採用すると発表した、京大のインキュベーションに本社を置くナノオプトニクスエナジーです。同社藤原社長とは、昨年前期に、一度、京大内のフレンチレストランで夕食をご一緒したことがありますが、EV開発も計画的に進めておられる様子でした。

 また同じく京大ベンチャーグリーンロードモータース社(GLM社)も堅実、かつ着実にEV開発を進めています。GLM社の小間社長はとてもお若い方ですが、本当に素晴らしいバイタリティの持ち主です。

 両社とも、ぜひ頑張ってほしいです。