Law is meant to protect peace from irrational confusion. - 法自体を否定する事態の懸念


(今回はほとんどレンタカーを借りての移動でしたので、それではとばかり新しいポイントからいつものビルを撮影)

 「13日にビッグなモップ(デモのこと)がある。アーミーが見張っているので心配するな。しかしそこにもそこにもアーミーが見えるだろ。」
 このようにあるタイ人が含みを持たせながら話をしてくれました。

 「表向きは平穏ですが中身はカオスな状態」がいまのバンコクかなと思います。インラック政権を支持するはずの貧困層が、反政府側の日当に目がくらんで反政府運動に参加?どうやらそのようなレベルの話を超えてきたようです。黄色い集団でもない、いままでデモに参加しなかった私の知り合いも、当然のごとく参加しています。

 そしてカオスな(混沌とした)状態が一番怖いと思います。表面的には民衆による平和なデモ、本質的には市民型民主主義への移行、それだけが現在のタイのデモ(現地でいう「モップ」)でしょうか?今まではそのように思っていましたが、1月8日から10日に現地で様々な人に話を聞き、自分の目で街の様子をみて、どうも今回は違うような気がしました。混乱に乗じて、目的とは異なった想定外の結果に収まってしまわないとも限りません。

 既に過去のブログで、黄色い集団による反タクシンデモから市民参加の反政府デモへとその姿を変えていることは触れました。その理由にも触れました。

 今までの一部の既得権をもつ集団による民主主義から、真の意味での市民型民主主義への移行の過程に過ぎない? 確かにこれは間違っていないと思います。そのように考えると、繰り返しになりますが、今までのような純粋な黄シャツ派の上流階級による反政府運動だけではありません。

 デモの引き金になったのが、インラック政権による恩赦法の改正であり、軍の支持を取り付けようとした行動にも現政権の思いの強さはわかります。一方でその恩赦法改正の一件はトリガーであって、今はそのことを引っ込めても事態は収まりません。

 デモの拡大は、コメの買取制度や公共工事の大型プロジェクト、新車購入10万バーツ(33万円)キャッシュバック、最低賃金の値上げなどのいわゆるバラマキ政治(それで多くの票をもつ農村部から支持を得るという政権維持、つまりこれを「ポピュリズム」といいます)、そのような現政権の政策(と、その裏で行われているとされる不正の数々)に対し(都市部を中心とした)人々の不満が加わったものです。

 この黄色い集団には今回一般市民も多く参加していますが、さらに日当目当ての(中身は)赤い人も混じっていたりして混沌としています。その様子を踏まえつつ街を観察していて、冒頭の「カオスな(混沌とした)状態が一番怖い」という懸念が浮かびました。特に年始に入りタイ人にデモの話を聞いて回ると、「アーミー」という言葉をしきりに口にするようになっています。

 確かに警察とは別に軍が目立つようになっていました。

 あくまでも懸念で済めば良いと思っています。駆け引きの部分も多分にあると思いつつ、発砲が起こらないといったことだけでなく、想定外の結果、この混乱に乗じた軍の暴走(クーデター)が起こらないことを祈ります。

 「まさか」「そんなことが起こるはずがない」と思うのが日本人ですが、実際、この国は2006年にクーデターで政権が変わってまだ10年も経っていないわけです。あのときも追い出されたのはタクシン元首相(インラック首相のお兄さん)です。

 そもそも考えてみましょう。反政府側は選挙を拒否しています。もちろん選挙をすれば地方で圧倒的な支持を持つ現政権が勝利するから、というのはわかります。しかし王様が「選挙をすること」に署名しても候補者を立てる様子はありません。現在の国の制度を認めないということは、どうしたいのでしょうか?無血革命でも起こしたいのでしょうか?実はそうなのです。ステープ氏は「インラック首相の辞任」と「無血革命(武力でも選挙でもない)政権委譲」を突きつけています。

 このように考えると、ステープ氏を頭とする反政府側の思惑とは別に、タクシン前首相を追い出した軍の思惑が気になります。それぞれもしくは両方が明日以降、何をしようとするのか、首都封鎖を続けるとされる今月末まで、さらに選挙予定日の2月2日まで、予断を許しません。

 もちろん軍によるクーデターが起こる可能性は低く、実際には赤と黄の両陣営、ぎりぎりまでの駆け引きが続くのかもしれません(軍の動きは単なる懸念で済むのかもしれません。つまり反政府の黄が諦めて選挙を行い結果を受け入れるか、現政権の赤が諦めて無血の政権移譲を行うかです。ただし2006年にも同じような2択の帰結かと思いきや、その混乱に乗じて軍がクーデターを起こしたわけです)。人それぞれに考えがあり、今回も少なからず第3極のクーデターを考えている集団が(きっと)いることは忘れてはなりません。そしてこのような想定外はタイだけではなく、日本にも当てはまるということも、平和ボケした我々日本人には必要なのかなと思います。

 
 (8日〜10日でデモらしきものはこれくらいしか見かけませんでしたが、13日は大規模なデモが予定されています)