Is there nothing unusual? - タイのデモは日本人も学ぶべき部分が多いと思います。

 赤色黄色といえばタマサート大学のカラーですが、2年ほどの前のブログで少し触れたとおり、タイの政治の支持構図を示すカラーでもあります。

 → 2011年8月のブログ(リンク)

 ここのところタイのデモが日本のメディアでも少し取り上げられています。日本のメディアを見ると、タイで起こっているデモは何か大変なことのように見えます。私としては数年前のデモの時もタイに仕事で行ったことがありますが、街は普段とさほど変わりませんでしたので、今回も"nothing unusual"(いつものこと)だろうと思っていました。

 しかしタイ人の知り合いがFacebookに挙げていたデモの写真をみると、いつもの通り、平和そうなデモではあるのですが、「ん?でも何か違う…。」と感じました。そこでタイ人5人ほどにFacebookを通じて、ならびに直接、聞いてみました。

 みな一様に「交通渋滞はありますが、危なくはないですよ。」「外国人にはほとんど影響がないと思います。」的な返答でした。デモ自体はいつもと変わらないようです(もちろんデモに参加をすると、思わぬ衝突には巻き込まれ負傷する可能性があります)。Ramkhamhaeng University周辺では、タクシン派の集まりを阻止しようとした反タクシン派の行き過ぎた行動はあったようですが、「そのような場所に行かないように、またデモには参加しないでね」とのことです。

 では写真を見て「何かが違う」と感じた部分は…?それも解決しました!前回のブログで説明した、純粋な赤(タクシン派)と黄色(反タクシン派)の対立という構造ではないようです。つまりデモ参加者のカラーが黄色一色ではなかったことが、私が違和感を感じた理由なのですが、デモ勃発の経緯を整理すると納得です。

 2011年の夏にインラック政権に変わってから2年程度、表面上はタイの政治は平穏でした。コトのはじまり(*1)は2013年8月に与党であるタイ貢献党(Phak Pheu Thai;プアタイ党)が恩赦法案を提出したところに遡ります。この時には、恩赦法の対象にタクシン氏が含まれていませんでした(一般活動家のみ)。しかし10月に突如修正し、タクシン氏らを含むことにして騒ぎが始まります。

 現首相のインラック首相はタクシン氏の妹ですから何気に改正しようとしたのでしょう。なんとこれがタイ貢献党の支持団体(UDD;反独裁民主統一戦線)からも反発されます。身内からの反発の理由はタクシン氏を含んだというではなく、対立方のアピシット氏(前首相)も対象になることに対してのようです。

 そこで仕方なく同法案を11月に上院で廃案としたのですが、騒ぎはこれで収まっていません。このようなインラック首相のやり方(結局は兄であるタクシン氏の操り人形なのかととられかねない行動)が、赤VS黄というよりは、そのどちらにも属していない人を含め「政権の打倒」へ動いています。つまりそのことが、デモが黄色一色でなかった理由のようです。

 あるタイ人の大学教員からこのように聞きました。「タクシン派はお金を配るから多くの地方農村や貧困層から支持を集めることができる。しかし汚職で集めたカネをバラまき、延々と政権を維持するような今のタイのやり方が間違いであることは、教育を受けたタイ人なら誰でもわかる。だから今回は反タクシン派だけではなく、国を変えるためにデモに加わる人が多いのです」と。

 どうやらインラック首相が下院を解散すると宣言しても、混乱が収まらないのはこの根本に理由があるようです。「選挙をしても結局多数の地方や地方農村や貧困層から支持があるので同じことが繰り返される(再度、タクシン派が多数を占める)。」と、その先生は考えておられるようでした。民主主義の構造的な負(?)の側面がタイにも存在するようです。

 ちなみに次の選挙ではタイ貢献党インラック首相を比例1位にするようです。これで当選すればインラック首相も、政治に関してはズブの素人とかいわれず、プロの政治家として認められるのでしょうか?

 今月末から3月にかけて、タイに出張を5回ほど予定しているのですが、「デモが起こっているから危なくない?」などと聞かれることがあります。心配していただくことは感謝なのですが、デモが危ないというなら日本の霞ヶ関福井県庁周辺は近づけません(笑)デモはテロではありません。日本でも頻繁に起こっています。

 しかし日本の場合は、このような国の政治や根本的な構造を変えねばならないというよりは、個別の事由や利害であったり、多分に感情に影響されたものである気がします。私は今回のタイのデモは、日本人も学ぶ部分が多いのではないかと思います。

*1 コトのはじまりは2013年8月と書きましたが、恩赦法に関しては、シンガポールでタクシン氏とインラック首相の腹心ユタサック氏の密会が6月に行われたという噂が以前より流れていました。その内容は軍が恩赦法を支持するようにというものでした。段取りよく6月末にインラック首相は国防相を兼任すると発表しています。