今年もタイで調査を実施−グローバル化は今や英語力重視化ではなく海外ビジネス志向化です

 「グローバル化」という言葉は、個々人の中での想いが多様なものだと思います。一昔前にこのような言葉を出すと、異文化体験や比較文化などを中心に想定する人が多かったように思います。高校、大学などの教育機関では、コミュニケーション力、といっても要は語学力(特に英語力)につなげる場合が多かったように思います。

 ところがこの1〜2年で「世間の」イメージも大きく変わりました。いま「グローバル化」というと、必要とするのは同じコミュニケーション力でも語学力だけではなく、「言葉が流暢に話せなくても、外国人と意思疎通を行い、笑いあえる人間力」、また異文化体験や比較文化の先にある「海外でビジネスを行うことに抵抗を感じない外向きのベクトル」です。つまりこのような点で見れば、正確には「グローバル化」ではなく、「グローバル産業化」と言えます。

 その背景にはもちろんパナソニック(特に関西では強いブランドでした)、ソニー(私の世代は好きですね)、シャープ(液晶と言えば…)といった(私のような世代以上が世界の一流企業と考えていた)大企業を取り巻く状況の変化です。ちなみに先日、授業を受けていた学生からは「これらの企業を特別に優良企業とか、就職したいとかは思わない」という回答でした。「え、そうなの?」という感じですが、その学生に言わせると、だからと言って新興の「○リーやDe○A」などが憧れというわけでもないようです。どの企業に興味があるのかと聞くと、「NTTか任天堂かなぁ」と。「あぁ、そういうことね」と「微妙に」納得します。それらの企業も現状はそれなりに苦労をしているのですが、まだまだ私の世代の感覚とは大きな相違はないようで「ホッ」と一安心、プチ・ジェネレーション・ギャップで済みました(笑)。

 話を戻します。「グローバル産業化」ですが、日本のビジネスの現場ではもちろん数十年前から起こっている動きです。言うまでもなくプラザ合意以降、急速に円高が進んだことと、安価な人件費を求めたことが要因で、製造業の海外移転は大企業を中心に、そして(時には「お前も来い、さもなくば…」と脅されながら)大企業に付いていくように中小企業も海外移転を行い、日本における産業の空洞化が進展してきました(研究者によっては「グローバルに見れば同じこと」といい、「空洞化の何が悪い」と、果てには「空洞化」という言葉を否定する人もいますが、ここは日本と海外という相対的な比較という意味で…)。

 そこに中国の経済規模の拡大、ASEAN+αの急速な台頭によるアジア消費市場の急成長が重なり、さらに先述の世界を席巻した日本企業群の昨今の苦戦により、企業が現状をブレークスルーするために(ソフト面などにおいても)更なる「グローバル産業化」を模索し、その結果、人材のグローバル化が求められ、日本人ではなく外国人を雇用するというような現象が方々で起こり、ようやく一般世間レベルでもこの「グローバル(産業)化」が意識されるようになったというのが正しいような気がします。

 さて、私は以前よりタイをフィールドに日系企業の行動や、その経済動態に関心をもって研究してきましたが、それらに加え、昨年より所属組織が行う「グローバル産業人材の育成に関するプログラムの構築調査」を担当させていただいています。3日前の12日にタイでの現地調査団に参加を希望する院生や研究員の方の募集を締め切りました(ちなみに私は途中2日ほどベトナムに行きます)。

 早速選考を行い、来月から訪タイする調査団メンバーを確定したのですが、昨年度が「多様性のあるメンバーで広く様々な産業分野において調査を行った」と例えるなら、今年度は「同プログラム構築に絞って、かなり深く調査を行えそうなメンバーになった」と言えそうです。応募者はどの方も素晴らしいポテンシャルを持っておられたのですが、みな高水準な提案をされる中、バランスなどを考えると「う〜ん」と迷いました。事前相談に来られた段階で、高い調査水準を要求し、選考が厳しいことを伝えた人にも、この事情を知っていただければ幸いです(><)。

 メンバーが確定したので、さっそくプロフィール、専門分野などを見ながら調査内容の小テーマの分担を考えています。「1.外国人の労務管理とそのスキル」「2.異文化に対する理解と日本人アイデンティティ」「3.主体性、積極性の国際比較」「4.知識・技能・イノベーション力の向上」などを当初より想定していましたが、本学留学生センターの方のご協力のおかげもあり、これらに合致したメンバーが揃いました。これで一安心(^−^)。

 といいつつ、明日から19日まで「キャリアとアントレプレナーシップ」に関連する国際シンポジウム、ワーキンググループなど、複数の用務で九州地方に出張で、のんびりはできません。本当は19日にアントレプレナーシップの研究者が東京で一堂に会する国際研究会に参加したかったのですが、同日は本学でもアントレプレナーシップに関しての話をしに来られる方がいます。本学で行事があれば、部署が違っても当然本学イベントを優先すべきですので、同日のこの講演の時間までには戻ってくる計画です。