起業人材の要素「リスクの教育」というけれど?

 キャリア教育に関する授業を担当すると、キャリアに関するポートフォリオ(Career Portfolio)を重視します。以前に担当した大学でも、また昨年の授業においても、そこで記録した内容を要素に分けていました(どう生かしてくれるかは学生次第ですが…)。

 ここ最近では、業務の関係から、グローバル産業人材に関するキャリア・ポートフォリオを作ることを考えています。ただのグローバル人材でもなく、産業人材でもない、また個々の感覚を双方持っていればいいというものでもなく、どこに重なりが存在するかなど、この領域は分析すべきものが多く存在するようです。

 さて、私の経歴が、学生創業(1997年、法人化1999年)、引退後(2008年)に大学研究員、教員ということから、「起業するために必要な能力」についてよく問われます。もちろん答えは単純なものではありません。内容も挙げればきりがないと思います。国内外を問わず、いわゆる純粋な研究者が述べるものは、(その多くが正しいのですが)すこし浅すぎるかなと思います。それなりの会社を経営した人なら明文化できないまでも、きっと共通して感じている「生臭い」というか「かなり現実的で具体的な水準まで落ちてくる」要素が結構あると思います。

 「浅い」というのはどういうことかというと、例えば「『リスクの教育』が起業には大事」といいます。実際に創業、経営経験のある方が述べられる場合は、きっと今からいうことを含んでいると思うのですが、失礼ながらその経験のない方の場合は表面上の言葉でしかありません。というのも「リスクの教育」だけですから…。そのあとの「どう行動すべき」につながらず、またその行動が無意識化されない(身につかない)からです。

 (例えば)「『不確実性』を認識すればいい」と整理できるものではありません。(異論もあるでしょうが)その「不確実性」には「身に迫る恐怖」が伴っているべきでしょう。「組織を潰してしまうかもしれない」、「ひとつ間違えればすべてが無に帰する」、このような感覚を伴う不確実さは、ただ「不確実性」を認識するというレベルではありません(敢えて言葉にするなら、「責任感と判断力を伴うリスクの教育」となりますが、すべてを表せていない気もします)。すいませんと謝っても、尻拭いをしてくれる上司がいない、それが経営者です。

 以前のブログ(→リンク)でゼロスポーツ社の話を出しました。そのときに「事前に契約で納期を定めていたならば、納期遅れの違約金が発生するリスクを認識していなければなりません。通常のビジネスでは、口頭での合意は極めて危険であり、最初の契約書に加え、後発事象であるその合意を「覚書」その他、証拠という形で残さねばなりません。」と記載しました。決して同社の経営を非難しているわけではありません。経営者だからこそ、こういう恐ろしい経験をする(ある意味「できた」)ということです。

 一度、会社経営を経験すると、まるで無意識化されるようにリスクに対する感覚が随所に出てきます。ゼロスポーツ社の例でも、結局文書がものをいいました。こういう経験を一度でもすると、その後は生活のあらゆる場面で、口頭と違うものが文書として存在すれば、それはやはり神経質になります。

 レベルは全然違う話ですが、こういう小さなことでも行動に出てしまうという例です。「大事な相手との打ち合わせがあってどうしてもキャンセルできない(したくない)」という状況を想定します。前日に強い台風が近づいているという情報を知ると、あらゆるリスクを想定します。すると多くの人が2〜3時間前の余裕で十分と思うことでも、様々な想定から不十分という判断になり、今日の私などは午前中に移動します。人との縁は、将来、どこでどういう展開になるかわからないとも思うからです(危険なことだけではなく、良いほうに振れる可能性もリスクです!)。幸い、本日お昼頃までは大阪行き特急サンダーバードが動いており(私が乗った電車の2本後を最後に運航休止になったそうです)、早めにグランヴィア大阪にチェックインしました。

 人からみるとやや特殊に見えてしまう行動なのかもしれませんが、上記のような感覚を説明すると、大概理解してくれます。このように(例としては軽すぎましたが、ゼロスポーツ社のことも踏まえ)「リスクの教育」1つをとっても、かなり深いところまで掘り下げて考えるべきだと思います。

 なお論理が飛躍しますが(かつ、ここにつらつらと書きつらねるのも長いのでやめますが)、「国を憂う心」は起業教育に必要な要素の一つです。国は自分が所属する組織の中でも、組織の中の個というアイデンティティを示す代表であることからです。

 大学院の授業では、今年もある素晴らしい経営者に講演をお願いしました。まさにリスクに関係する話をしてくださいます。有名企業の経営者のお話もいいのですが、こと起業教育に関しては(きっちり打ち合わせを行ったうえで依頼をすれば)中小や零細といわれる企業の経営者のものほど、内容の濃いものはないと思っています。


 
 (用務を早めに進めて、明るいうちからディナーです@グランヴィア大阪19階)
 
 (だんだんと、日が落ちていきます。結局、台風はそれましたね…)
 
 (最初は赤ワインとジンジャーエールを割ったカクテル「キティ」でしたが、2杯目はお気に入りのお馴染みジンベース「オレンジブロッサム」
 
 (やはりメインはお魚、「鯛」にかぎります!)
 
 (デザートは暖かいチョコが中から…、さすがに甘すぎた…、もう歳かな)