Crowdfunding(クラウドファウンディング)は目新しいものなのか?

 前回のブログで、3月下旬に米国上下院通過、4月5日に大統領署名された米国におけるJumpstart Our Business Startups Act (JOBS法)の成立について記載しました。その中でcrowdfunding(クラウドファウンディング)に触れましたが、なぜcrowdfundingが気になったかというと、実は同内容は昔読んだ文献に既に記載されていたものだったからです。

 Andrew D. Klein,"WallStreet.Com - Fat Cat Investing at the Click of a Mouse"というタイトルで、1998年に出された書です。この2〜3日、その昔の本を探していたら出てきました。この本、かつて私が院生時代、学位論文を書く際に参考文献としたものです。

 
 (少し年季の入った表紙ですが、著者の笑顔は健在です(笑))

 JOBS法を説明したサイト等では、crowdfundingにより新興の小企業が小口の一般投資家から資金を調達する機会が広がるという説明がされています。しかし同書では、既にその内容が記載されています。

 "By serving basically as a clearinghouse for private placements, Wit enables would-be private-placement issuers and investors to simply bypass the brokerage houses." (同書p.174)

 Wit社(著者が創業した証券会社)は私募案件の清算機関として機能することで、私募債発行企業と個人投資家とがブローカーを経由せずに直接取引ができると書かれています。

 では著者はなぜこのようなアイデアを当時思いついたのでしょうか。実は著者は1990年代に(当然、JOBC法やそれに準じる法はない時代です)、今回のJOBC法が認めるcrowdfundingをやってのけています。面白い記述があります。

 "There are a number of paths to capital formation under U.S. laws, but a bottom, there's only one way to do it: you have to go out and ask people for money."(同書p.53)

 米国法の下で資金調達をする形は様々だが、根本は1つである。行動し、人に資金を求めることである、と言っています。実際に著者はビール会社を設立し、米国SEC(U.S. Securities and Exchange Commission証券取引等監視委員会)とのやり取りはあったものの(当時はJOBC法が制定されていなかったことから様々に問題になったのでしょう)、一般の投資家からの資金調達に成功しています。

 その後、自身がビール会社において資金調達を行い成功した経験をもとに、今度はWit Capital社(証券業)を設立し、小企業の資金調達支援を手掛けることになったわけです。

 従来、米国における非公開企業の私募は、(純資産要件や投資能力要件を満たした)適格投資家(accredited investor)からのみを対象とするという米国法の制限があります。しかしJOBC法でその要件が緩和されたことで、起業が本当に促進されるかもしれません。

 私が大学院生時代にベンチャーファイナンスの研究をしていたことがきっかけで、起業教育研究や金融経済教育研究をはじめたことに関係しますが、起業を促進するひとつのハードルはやはりファイナンスにあると思います(アーリーステージでの一般からの資金調達には、証券業から見たデメリットもあるのですが、長くなるのでここでは省略します)。