福井大地震に耐え抜いたコシヒカリ 〜切り餅知財係争の軍配〜

 業界2位が1位を訴えた切り餅特許権侵害訴訟は、昨日、1審の判決が覆り、「切り込み」の特許権をもつ2位に軍配が上がったようです。これはサトウ食品工業新潟市,業界1位)の切り餅に施されている上下側面の「切り込み」が、越後製菓長岡市,業界2位)の側面の「切り込み」の特許権を侵害したとして、越後製菓が訴えを起こしていたものです。
 佐藤食品工業は、「餅業界で初めて餅を一切れ一切れ無菌化包装する技術を開発」(同社ホームページより)したとされており、売り上げは横ばいながらも、この3年の経常利益はおよそ10億円前後で推移しています。しかし今回、越後製菓佐藤食品工業に求めている賠償額は14億8500万円です(請求ベースで確定ではありません)。
 切り込み1つの特許権で、業界1位の年間の経常利益が吹っ飛ぶかもしれない知財係争の世界を見ると、どのような産業に属していても、今後の更なる知的財産戦略の重要性を感じます。もしかするとこの知財係争が、今は大きく離れている業界1位と2位の差を縮めるかも、場合によっては逆転につながるかもしれません。

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 共に新潟県に本社を置く2社で争われている切り餅特許権侵害訴訟ですが、新潟県と言えば「米どころ」、「魚沼産コシヒカリ」も有名ですから「コシヒカリ」の地と考える人が多いと思います。かくいう私も、当地に来るまではそのように思っていました。

 しかしこちらで毎月行われている異業種交流の会にて、メンバーの方から懇親会の席で「コシヒカリといえば福井県だよ!」という話を聞きました。私は「なんじゃ、そりゃ?」と思い、とにかく調べてみました。すると…。

 「初代コシヒカリ」は、昭和19年新潟県農業試験場で高橋浩之により誕生しています。4年後の昭和23年にF3(雑種第3代のこと、「高校生物」が懐かしいですね、私は遺伝の章が大好きでした)20粒について、味はいいが、倒れやすく、いもち病に弱い点などを理由に、「使えないから、やる!」ということで、新潟県農業試験場から福井県農業試験場に譲渡されたそうです。昭和23年は福井大地震が起こった年です。そしてコシヒカリは、この大地震を奇跡的に耐え抜きます。

 福井県農業試験場の石墨慶一郎氏らによりコシヒカリは品種固定され、昭和28年に「越南17号」として新潟県に里帰りしたということです。その後、各県で次々と奨励品種となり、コシヒカリは有名になっていきます。

 このような歴史の経緯を見ると、起源という意味では新潟県という見方もできるのですが、そのまま新潟県で埋もれていれば、今、私たちの食卓にコシヒカリが出てきていない可能性が高いですね。新潟県で一旦見捨てられたコシヒカリですが、その捨てられた金の卵を大事に育て、今、輝いているという意味において、福井県農業試験場、石墨慶一郎氏らが育ての親(越南17号の生みの親)といえます。福井県コシヒカリ、このイメージがもっと強くてもいいように思います。

 ちなみにコシヒカリの名は「越の国に光り輝く」ことを願ってつけられたとのことです。見事に光り輝きましたね!

 参考サイトはこちら(「福井県とコシヒカリ」サイト)

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 企業に関わる知財係争と言えば、キャラクター好きな私が気になったものが、昨年、ミッフィーがキャシーを訴えた件です(笑)。「ミッフィー」の知財を持つオランダのメルシス社が、日本のサンリオ社に対し、キャシーがミッフィー著作権や商標権を侵害したとして訴えを起こしていたものです。昨年11月に裁判所が、キャシーがミッフィーの「コピー」であると認定し、ヨーロッパの一部地域における生産と販売停止を決定、サンリオ社が異議を申し立てたため、メルシス社は本訴訟を起こしました。
 
 (http://www.iza.ne.jp/news/newsarticle/event/trial/458740/slideshow/359060/ より、切抜き。左がミッフィー、右がキャシー。このような訴訟を本格的に起こすなら、中国のキャラクター知的財産侵害の横行はどうなるのかと思います(キャラクターに限りませんが))

 しかし今年6月に、メルシス社はこの訴訟を取り下げ、両社は裁判にかかる費用を東日本大震災への義援金に充てるとして、丸く収まりました。

 両社は市場が重なるとはいえ、マザーマーケットは異なります。一方で切り餅の2社はマザーマーケット自体が完全に重複しています。このような違いが、丸く収まるか、とことん係争するかの違いになるのかもしれません。