Donut war has broken out in Japan. - 市場拡大かパイの奪い合いか?


(某世界的ドーナツブランドのショーケース@タイ国バンコク2014年2月)

 セブンイレブンがドーナツを販売しだしました。年末に私用で京都にいたのですが、たまたま通りがかった左京区八瀬の山の中のセブンイレブンで発見し購入すると、これが意外といけました。美味しかったので、昨日、大学の横のセブンイレブンに買いに行きましたが、残念ながらまだその店では扱っていませんでした。(*1)

 早速、方々で話題になっているようです。「セブンイレブンのドーナツはミスタードーナツに勝てるか?」「ミスドは大丈夫か」といった競争というとらえ方もあれば、「ドーナツ市場の拡大につながる」「新たな文化の創造」という市場拡大の意見もあるようです。(*2)

 どちらでしょうか。それとも別の展開を見せるのでしょうか。

 競争という考え方をみてみましょう。参考となるのが、2013年〜2014年にかけてのセブンイレブンの入れたてコーヒー市場への参入と経過です。このときも既存のコーヒー店との競合が噂されました。

 セブンイレブンのコーヒーの評判は良く、実際、私も好んで飲みます。またセブンイレブンの成功を見て、他のコンビニも相次いで参入しました。では既存のコーヒー店の顧客を奪う競争になったのでしょうか。

 スターバックスコーヒージャパン株式会社の売上と営業利益は、第2四半期(4〜9月)ベースで、
 2013年(4〜9月) 売上636.73億円 営業利益 73.75億円
 2014年(4〜9月) 売上700.06億円 営業利益 88.70億円
と、売上で約10%、営業利益で約20%も伸ばしています。

 株式会社ドトール・日レスホールディングのほうはどうでしょうか。売上と営業利益は、第2四半期(3〜8月)ベースで、
 2013年(3〜8月) 売上580.19億円 営業利益 49.95億円
 2014年(3〜8月) 売上607.47億円 営業利益 54.05億円
と、やはり売上で約5%、営業利益で約8%ほど伸ばしています。

 つまり顧客を奪うどころか、市場拡大に貢献したように見えます。さらにコメダコーヒーHDも14年2月期には、売上44%増の159億円、営業利益17%増の34億円を上げており、昨年12月には上場を視野に入れているという報道も流れています。

 しかし結論を急ぐのはまだ早そうです。ここ数日は異物混入で話題になっている日本マクドナルドHD株式会社を見てみましょう。売上と営業利益は、第3四半期(1〜9月)ベースで、
 2013年(1〜9月) 売上1973.52億円 営業利益 107.74億円
 2014年(1〜9月) 売上1722.48億円 営業利益 002.38億円
と、なんと売上で約13%、営業利益で約98%もの落ち込みです。

 もちろんマクドナルドは、コーヒーが主力商品ではありませんが、プレミアムローストコーヒーがコンビニと同価格の100円であることからも、コーヒーの落ち込みもあったと考えることは十分に可能です。実際に、コンビニが入れたてコーヒーの参入に動いたのは、マクドナルドのコーヒー販売が2008年に開始以来、順調に伸びたからといわれています。つまりコンビニのライバルは最初から既存のシアトル系コーヒーチェーンではなく、マクドナルドだったと考えることもできます。

 確かに、スタバやドトールに入る客は、コーヒーの価格帯も異なれば、待ち合わせや時間つぶしなどの目的での利用も十分に考えられるため、セブンイレブンでコーヒーを買う目的とは異なると考えられるわけです。(*3)

 では、話をドーナツに戻しましょう。日本はとても特殊な市場になっています。1100億円を超えると言われる日本のドーナツ市場のおよそ9割を占めるとされるのがミスタードーナツです。コーヒーの例では、ほぼ同じ価格帯の競合であるマクドナルドのほうが影響を受けました。

 さらにこれまでに何度も繰り返されてきたミスタードーナツの100円セールも、魅力低下の影響を受けると考えられます。既にセブンイレブンでは、多くのドーナツが100円だからです。

 次にこれまで市場をほぼ独占してきたことの弊害です。海外ではミスタードーナツ以外にも、様々な世界的なドーナツチェーン店が存在し、切磋琢磨してきたと考えられます。一方で日本の場合は、競合がいなかった分、競争によるクオリティは高められてきたのかという疑問もつきます。もっとも日本のミスドは、個人的には味は悪くないと思いますが、カナダやタイなどの海外に行くと、私は他のお店のものを選びます(あくまでも個人的な好みです)。

 また商品構成からみても、セブンイレブンのターゲットは、やはりミスドで間違いないのではないかということです。並んでいたドーナツは、ミスドの売れ筋ととてもよく似ていて、差異化して争うというよりは、真っ向ガチンコ勝負に来たという意気込みを感じます。

 とするとミスドとしては、コーヒーのスタバやドトールの例のような、戦略が求められます。と言っても、今更、新たに高価格帯のラインナップで勝負することは難しいでしょうから、いかにクオリティを高め、セブンイレブンと「同様のもの」とみなされないようにするか、ここにかかっていると言っても過言ではないでしょう。さらにはセブンイレブンにはない、憩いとしての場の提供の付加価値を高めることも貢献するかもしれません。現在の店舗設計をさらに良くしていくことも大切でしょう。

 一方、市場の拡大の可能性がないわけではありません。1100億円の市場規模は決して大きくなく、先ほど触れたように、むしろ他の世界的なブランドがほとんど進出していない(拡大していない)ことからも、日本のドーナツ市場は小さいと考えることもできます。

 1個からでも気軽に買えるコンビニとの勝負、どうやら当面はミスドにとって、セブンイレブンによる影響は避けられないような気がします。

(*1)
 京都の八瀬という山の中で売っていて、福井の大学横で扱っていないのが、どうも納得がいきません。流通網や直営か否か(オーナーが導入するかどうかの判断)の関係でしょうが…。
(*2)
 不思議とセブンイレブンが大ゴケして撤退という意見をまだ耳にしないですね。確かに美味しくて安いので、すぐにはなくならないとみなさん、踏んでいるのでしょうか。
(*3)
 入れたてコーヒーの事例において、セブンイレブンの参入はシアトル系コーヒーチェーン店の売上や営業利益に貢献しているか否かも、厳密に考察しましょう。
 
 (売上の推移、両社共に決算期ベース、単位:百万円)
 
 (営業利益の推移、両社共に決算期ベース、単位:百万円)
 この結果も分析可能です。スタバは、実は2013年3月期以前から、売上においても営業利益においても同様の成長を続けています。つまりセブンイレブンの参入が、スタバの売り上げにプラス(市場拡大論)かマイナス(顧客を奪った論)という議論自体が無意味であるとも考えられます。一方で、ドトールですが、2013年2月期まで、売上が横ばい、営業利益が減少傾向になっていたのに対し、2014年2月期には見事に売り上げも営業利益もV字回復を見せています。こちらはセブンイレブンの参入により、恩恵を受けたと考えることが可能ですね。