No matter how much we discuss putting the contest into effect, it should be meaningless, speaking about its impact. - 何かを非難しているのではないのですが、実施方法をいくら議論したところで…。

 ようやくイノベ―ション創出に関するデザイン思考を絡めた一連の仕事が一段落しました。そこで先月のある会合で話題になったビジコンについて、私の考えを少し記載したいと思います。

 "Easy Startup"と言えば、その「日本語としての」イメージも悪くないのですが、そこにはアッと驚くような要素がなければ、コンテストのようなものでは高い称賛を行うことに慎重にならねばなりません。
 (注) 先日に記載したとおり、日本語の「スタートアップ」の誤解はこちら… → リンク

 私は今でも数多くのビジネスプランやアイデアプラン、地域活性化プランのコンテスト審査員をさせていただいています。その際にアイデアプランはもちろん、ビジネスプランにおいてもインパクトは重要な要素です。また地域活性化プランにおいてはビジネスプランで終わっているものが数多く存在するのですが、地域の人口増加、人の暮らしやすさ、地域を含んだ経済循環といった、本来の目的にかなったものであるかを説明する必要があります。

 さてビジネスプランに絞ってお話しすると、よく使われるデータですが、バブソン大学等による「GDPの成長率と起業活動」の正の相関関係があります。それを踏まえアントレプレナーシップの不在は、国単位だけでなく個別企業の『成長なき将来』をも示唆する。」(NRIアメリカ、バブソン大学「コーポレート・アントレプレナーシップ野村総合研究所、2001年)に代表される意見は数多く存在します。

1.ヨーゼフ・シュンペーターは「創造的破壊」という言葉を用いて、現在の産業社会は起業家によってつくられたとしています。つまりこれは起業家が行うイノベーションが経済を成長させるという主張です。

2.加えて基本的なミクロ経済の考え方として、ある市場に利益の余剰がある限り、そこに新たな事業者が参入してきます。

 この2つを踏まえ、Scott Shaneの主張を見直すと極めて明快です。Shaneは典型的な起業と、ごく一部の急成長企業を例に挙げ、「ごく一部の急成長企業は経済の成長や雇用創出に貢献してきた。その上で起業の数を増やす政策は決して優れているわけではない」(Scott A. Shane [2010] “ The Illusions of Entrepreneurship” Yale University Pressとしています。つまり「起業がなされる時期や場所と、GDPの成長は正の相関を示す。しかし相関関係と因果関係は別であり、景気の良い時ほど起業しやすく、起業から生まれる利益は大きい可能性があるからだ」(同書)というわけです。わかります?要は「起業が景気を良くしているとは断言できず、景気がいいから起業が生まれるんでねえの?」と言っているわけです。

 成果としてのGDPに焦点を当てた場合、余剰利益を求めて参入してきた新しい事業者の起業による経済成長への貢献が既存の起業のものより小さければ、それは決して社会に成長を与えているとは断言できません。つまりビジコンで実現性のあるプランを重視しすぎることや、起業の実現(起業数の増加)が社会へのインパクトを有するという短絡的な考え方は非常にまずいわけです。

 シュンペーターが述べるような創造的破壊を生み出す起業、つまり起業の質が社会へのインパクトを左右するという原点に立ち返り、ビジネスプランコンテストでは実現性至上主義にならないよう、私としては引き続き関係者には願いたいわけです。単に「これなら起業を実現してくれそうだ(実現可能性5点、インパクト・創造性2点)」より、「ほほう、このプランそのものでは実現に至らないけど、アイデアは面白い。周りが手助けすれば社会が変わるかも?(実現可能性3点、インパクト・創造性4点)」を評価したいわけです。

 あと従来のコンテスト形式と近年の創造デザイン手法を二律背反のように捉えがちですが、これは後者のアウトプットを前者で評価するということで良いかと思います。