What are merits and demerits of "over allotment"? −アジュバンコスメとenishとコロプラの新規上場を見て、オーバーアロットメントについて、ふと考えた

 株式市場が少し上向きになるや否や、今月に入り続々と新規上場銘柄が生まれています。しかし少し気になるのが、その人気の差、つまり初値形成とその後の動きです。

 今日、新規上場したのはコロプラとアジュバンコスメジャパンです。コロプラは、スマホの位置情報をもとにしたゲーム開発会社で、アジュバンコスメジャパンはその名の通り化粧品の製造開発と販売をしています。また一昨日には、enishが新規上場しました。こちらはSNS向けソーシャルゲーム開発の会社です。

 この数日の新規上場が気になったのは、一昨日のenishが、なんと公募価格が800円に対し、初日は値がつかず、2日目の昨日、なんと2500円で初値、3日目の今日の終値はさすがに2335円と利食いに押されましたが、それでも公募価格の約3倍で推移したことになります。

 IPOを気にしていた理由は、先月15日に新規上場した人材派遣のキャリアリンクが、仮条件(400〜440円)の真ん中の420円での公募価格の設定となり、「あまり人気がないのかな?」と思いきや、初値はストップ高後の2日目846円と倍以上でしたので、日本の株式市場復調の予感を感じていたからです。

 確かにその後の日経平均は堅調に推移し、もう1万円目前ですね。しかしさすがに日本の株式市場が復調しかけたとはいえ、ここ数日のIPOラッシュ、市場からの資金吸い上げは少々心配です。

 そして本日のコロプラ、公募価格は3000円で初値が5650円、初日の今日の終値は4660円。産業的には期待の分野なので頑張りましたが、少し市場のパワーが無くなってきているのでしょうか。アジュバンコスメジャパンは公募価格が1250円で初値が1310円、初日の今日の終値は1171円…、うーん、だめですね…。比較的高利益体質な産業、かつ選挙結果に左右されないゲーム産業に属する、コロプラやenishとの違いということもあるのでしょうが、先日のキャリアリンクの人材派遣分野でさえあの初値でした。そこからいえばやはり今回の失速は、ここ最近は市場からの資金吸い上げが急すぎたのでしょう

 なんとなくコモンズの悲劇状態ですね。今の株式市場のパワーをこぞって吸い上げてしまおうみたいな上場ラッシュです。

 明日以降は他の銘柄に関しても、enishやコロプラがどのくらいの勢いを持続するかにかかっていると思います。もちろん為替や選挙結果で自民党がどの程度圧勝するかが直接的には大きいでしょうが、それらの要因とは別に日本の株式市場全体のいわば「体調(要は需給の程度)」を占うとすれば、やはりこの新規上場銘柄の推移でしょう。これらが公募価格より上を維持して動けば、来年は巳年!「戌亥で借りた借金は辰巳で返せ」という格言の通り、一大相場がやってくるかも知れません。

 以前のブログで記載した(⇒リンク)、海外の"Stocks climb the wall of worry." や"Sell in May and go away." よりは、「戌亥で借りた借金は辰巳で返せ」のほうが、私は信じられるかなと思っています。意味はそのままで、商売では「戌の年」と「亥の年」に借金をしてでも事業を拡大し、繁盛期になるとされる「辰の年」と「巳の年」に儲けて返済せよというものです。

 実はこちらのほうが、心理学的にも需給的にも根拠はない(と私は思う)のですが、なぜか今まで当たっています。「辰の年」か「巳の年」に相場は天井になります。実際にバブル全盛期といわれた1988年、1989年(日経平均はなんと最高値1989年12月29日の38,915円!)は「辰の年」「巳の年」です。ITバブルの2000年(日経平均は2000年4月12日の20,833円!ですが、2001年は下落傾向で推移…)も「辰の年」です!そして今年2012年は「辰の年」!年初に「今年はダメかな」と思っていたのですが、なんとこの年末に日経平均は1万円に迫る勢い、そして来年は「巳の年」です!!しかし繰り返しますが、景気回復に根拠があるわけではなく、偶然ということかもしれません(念のため)^^。

 とかなり最初に書こうとしていたことから話が俗っぽい話にそれてしまいました。今日は何が言いたかったのかというと、オーバーアロットメント(over allotment)についてです。コロプラもアジュバンコスメジャパン、enishもオーバーアロットメントによる追加売り出しが実施されています。

 オーバーアロットメントとは、IPOの時に需要が多ければ、主幹事証券会社が企業の大株主らから株券を借り、公募価格で追加販売することです。「(主幹事証券が大株主らから)株券を借りる」というところがポイントです。この仕組み、実は証券会社にとっては、とても美味しい話です。

 「借りる」ということは、いずれ「返す」のですが、たとえば証券会社が1株1000円で10万株の株券を借りれば、1億円分を売り出すことになります。つまり一時的に1億円を証券会社が手にします。

 ただしお金ではなく、この株券自体を大株主に返さなければなりません。すると「普通なら」証券会社はリスクを負いますよね。なぜなら返す時に、株価が1000円ではなく1500円に上がっていれば、1万株の株券を市場から1500円で買い付けて1億5000万円のお金が必要になり、5000万円を損しそうなものだからです。しかししかし、そこは金融のプロフェッショナルです。こんな仕組みを組んでいます。

 グリーンシューオプションという、「公募価格(引受価額)で調達できるコールオプションの権利」を行使するのです。つまり、株価が上がっていても、1億円で調達できますから、損はなしということになります。

 では逆の場合、つまり株価が公募価格の1000円を割り500円になっていたとしましょう。すると今度はシンジケートカバー取引を行います。要は市場でその時価500円で1万株を買い集めるわけです。すると5000万円で買い集めて、借りた元の大株主らに株券を返すことになります。気付きますよね。この時点で、主幹事証券会社はちゃっかり5000万円の利益を得ています。

 一見、このような仕組みは、主幹事証券「ウマー!」となるので、普通に公募価格に応じた投資家が損を被っているようで、不公平な気もするのですが、実はそうではないのです。なぜならは、株価が公募価格を上回って推移すれば、それは投資家にとって幸せなことですし、主幹事証券も先述のように損はしません。

 一方で、公募価格を下回っていれば、投資家にとっては不幸です。証券会社にとっては「ウマー!」でした。しかし投資家にとっては、この証券会社の「ウマー!」が少し救いになります。証券会社はシンジケートカバー取引を行いますから、市場で買いを入れるわけです。需要が増えますから、基本的に何もしない場合よりは株価は上昇します。つまり投資家にとっても少々救われます。

 ではここで質問です(^−^)。基本的に株式売買の世界ではゼロサムゲームです。投資家と証券会社、双方にとって、オーバーアロットメントは良いこととなります。では誰が損失を被る可能性があるのでしょうか?相場が公募価格を下回っているとき、もちろん投資家は損を抱えますが、それでも証券会社が買いをいれる分、ありがたいわけです。しかしこのとき実はありがたくない人もいます。それは誰かわかりますか。

 最後に、オーバーアロットメントは主幹事証券会社の利益の拡大を防ぐため、公募と売出しの数量に対し15%までとしています。今回の3社、結構、いい線まで主幹事証券会社は設定しています。

 コロプラ(2012年12月13日上場,主幹事:大和証券)で、公募78万株、売り出し54万株合わせて132万株に対し、オーバーアロットメントは13万2000株と10%、アジュバンコスメ(2012年12月13日上場,主幹事:野村証券)で、公募75万株、売り出し25万株合わせて100万株に対し、オーバーアロットメントは15万株と15%、enish(2012年12月11日上場,主幹事:大和証券)で、公募5万株、売り出し104万株、合わせて109万株に対し、オーバーアロットメントは15万9000株と14.6%です。結構、設定していますね。ガリバー野村證券などは、もしかすると今回かなり稼ぐのでは?などと計算してしまいます。このように株価が低迷しても、主幹事を引き受けることのできる大手証券会社の場合は、隠れた収益モデルがあります

 今回、何を考えてみたかというと、このオーバーアロットメントのモデル、果たしていいことなのかどうかです。どうしても判断に迷いが出てしまいます。上の質問をしたように、(あくまでも実損ではありませんが)大損する可能性のある人もいるわけで…。