It is appropriate to maintain fair competition. - 日本航空の再上場と今の株価を考える


(「鶴丸」マークではない機体も未だにあるんですね)

 2010年2月19日に上場廃止となり、2012年9月19日に再上場、取引開始と、わずか2年7ヵ月で最速再上場を果たしたJAL日本航空)社ですが、株価がパッとしません。公募価格3790円に対し、2012年9月19日の初値は3810円、初日の終値が3830円とお決まりのお化粧相場の様相でした。しかし再上場取引開始2日目は3845円(いい感じ!?)と外国人からの人気なのか順調にみえつつ、3日目以降は3680円(下げた)、3720円(戻したものの公募価格に届かず弱さを露呈)、3395円(そして暴落)、3540円(半値戻しすら出来ず期待が遠のく?)、そして今日の終値が3535円と日経平均が上げる中の逆行5円安でした。

 株価ですので、こういう理由からこの価格になるとか、今の価格は高い、安いなんていうことを、私が断定するのは避けますが、個人的にはJAL社の株価の動きに関心を持っています(投資対象という意味ではなく、「IPOにおける創業者利益」と「再上場に伴う出資者利益」との差異など、起業周辺の研究に付随することとして)。

 同社再上場株の価格は、通常のIPO株に比べ、特に企業価値に関し特殊性が伴っています。2012年12月1日、同社株式は公的資金を入れる前に株主責任として100%減資を行いました(「更生計画に基づき全ての株式を消却」(同社新株式発行にかかる目論見書より)などとさらりと書かれていますが、つまりそれまでの既存株主がもつ同社株の価値を0にしています)。

 そして同日付で、企業再生支援機構が1株2000円で出資、1億7500万株を保有しました(3500億円ですね)。まずこの1株2000円が新生JAL株の一つの株価のポイントとなる数値です。

 次に2010年12月24日、同社役員、執行役員計20名が同価格の1株2000円で合わせて2000株の増資を引き受けます(400万円)。ここは1ヶ月も経っていませんし、実質的な経営陣ですから、特に問題はありません。

 その次です。翌年2011年3月15日、およそ同社再生の目途も経った頃です。同社取引先8社が1株2000円で635万株の割当を受けています(127億円)。「なぜ創業者的資金を拠出した公的資金と同じ価格?」という疑問が湧きやすいところです。

 確かに3ヶ月前に比べ、同社の企業価値は向上しているのかもしれません。ただこれも私は妥当だと思います。新生JALの創業者「的」な存在は企業再生支援機構ですが、0から創業したわけではなく、実質的に事業譲渡を受けた形です。ビジネスモデルも従業員も顧客からインフラまで、言ってしまえば何から何まで揃っている状態に対し出資しているわけですから、100%減資後最初に出資した企業再生支援機構は「創業者」ではありません。

 そしてこの第3者割当ですが、割当先が主要な取引先です。むしろ取引先のは同社存続に欠かせない存在、また今までも同社を支えてきた存在です。私は公的資金の価格よりむしろディスカウントしても良いとさえ考えます(ちなみに今回の上場に関しては、180日のロックアップ(原則として、グローバルコーディネーターの許可なくして、売却できない期間)がかかっています)。

 そもそもこの増資価格が安すぎるなどと非難する向きが(もし)あれば、取引先へのストックオプション付与が可能になった現在の流れを否定することになりますね。

 そして月日は流れ…、2012年9月19日、同社株は1株3790円という公募価格で、東京証券取引所に戻ってきました。この価格はどうでしょう。企業再生支援機構は1株2000円で出資し、それが3790円で回収できたことになります(諸経費等は別として)。

 企業再生支援機構を創業者とした場合(「創業者的」としても)、結構、微妙かもしれません。わずか1〜2年の期間と言ってしまえばそれまでなのですが、JAL株の上場に関し、こんな相場環境が悪い時期に「あえて」市場から資金を吸い上げるようなことをせず、もっとじっくり育てるのもありだったのかなと思います。もっとも国のお金ですから、いち早く換金すべきという意見もあるかもしれません。

 そこで同社株の株価なのですが、どのように見るべきでしょうか。3535円といえば、PBR値(price book-value ratio:株価純資産倍率)で見れば、2012年3月期末の同社の1株当たり純資産が2142.37円ですからおよそ1.6〜1.7倍です。PER値(price earnings ratio:株価収益率)で見れば、同社2013年3月期第1四半期決算短信による年度末の1株当の最終利益予想が716.84円ですから5倍を切っています。なんとなく割安な「気」がしますが、ここは同社の特殊性に注意しなければいけません。

 同社は欠損金(赤字のこと)の繰り越しが認められています。その額4000億円。すなわち経常利益から当期純利益を計算する場合、多くの会社では法人税でドバっと持っていかれる税金が4000億円分免除されています。しかもこの繰越欠損金の所得控除(欠損金と将来の利益が相殺できる制度)の期間が7年から9年に延長されました(平成23年税制改正法人税法57条1項)。

 これは人それぞれの見方ですが、「だから高利益な企業」とみるか、「いや、これは一時の幻想」と見るかです。いずれにせよ長期では、この恩恵は消えます。

 さらに株価指標は良くても、ファンダメンタルな部分では決して楽観視できません。LCC(Low-Cost Carrier:格安航空会社)の台頭、とんでもない隣国による日本の観光産業への影響(隣国自身への影響は自業自得です)、さらにもしかしたら異常気象も?など、その他にも考えることは様々です。

 ファンダメンタルを抜きにしても、最も根源的な問題が残っています。それは需給です。そもそもこの市場環境が悪い中、6000〜7000億円も市場から吸い上げたわけです。今後、改めて今回購入したこれらの株主が同社株を売りに出した場合、それだけの供給を消化できる需要が続くかどうか(実際、ここ数日の下げはファンダメンタルだけでなく、需給要因も大きいかもしれません)、ということです。

 何よりもひどい話(というか可哀そう)なのは、ライバル航空会社と目されるANA全日本空輸)です。ANA社も負けじと増資を行い(これも市場に相当なダメージを与えていますが)、JAL社とANA社の時価総額は逆転したりもしています。しかしJAL社は、借金棒引きの上、国が手取り足取りの再生をして、さらに今後も税額免除まである過保護状態です。これではJAL社とANA社が対等な競争をしているとは言えませんよね。

 こういう2社の競争が公平かどうかもさることながら、JAL株の売り出しに際し、野村證券がグローバルコーディネーターから外された件、理由はANA社の増資にも絡んでいるからという「もっともな理由」ではあるのですが、こういうところだけはJAL社とANA社は対等な競争をしているとみているのでしょうか…。

 ただ私は個人的にはANA社よりはJAL社のほうを好んで乗っています^^。JALを好む理由?もちろんこちら「JALたん」です⇒リンク

 
 (こちらは復活の決意を込めた「鶴丸」マーク)