Unexpected Surprise − そうきたか!?ある意味で新鮮な驚き

 「またか、というのが率直な感想だ」との文言ではじまる、日本経済新聞電子版2012年8月29日の記事があります。「またか」というのは、ゲーム業界のコンプガチャ騒動のことを指すようです。確かにこのニュース、一瞬またかと思いますが…。

 スクウェア・エニックス社が2012年8月2日にリリースしたMMO-RPGドラゴンクエストX」は、発売開始1ヶ月を待たずに50万本が売れるという、国産MMO-RPGでは驚異的な大ヒットです(売り切り型のオフラインソフトではなく、「パッケージ料金+月1000円の継続的売り上げ」が生まれるビジネスモデルでは大成功といえます、オンラインゲームにおいて、もしミリオンセラーまで行けば、それだけで従来の初回パッケージ売り上げに加えて、毎月10億円の継続的収入ですから、その半分でもやはり素晴らしい売上です)。

 その「ドラゴンクエストX」のチャット機能に「ダイス」というコマンド(ランダムに100までの数字を出す機能)があります。それがプレイヤー間でゲーム内通貨の賭けに使われていることから、この記事を書いた方によると「賭博罪が成立する可能性は高い」と述べています。

 ゲーム内通貨が、RMTリアルマネートレード)で現実経済の現金に変われば、リアルマネーの賭博じゃないか」という、ネット上の書き込みや噂は確かに存在します(これを言い出すなら、そもそもパチンコ店の景品のやり取り、その現金化はどうなるんだという話です。またネット上の噂の出所自体は、揺るがぬRPGリーディングカンパニー状態に対する妬みのようにもみえますが…)。

 ダイスの機能はMMO-RPG創成期のおよそ10年前から既に存在します。もちろんRMTも。

 私が以前にはまっていたゲーム"Ever Quest"(エバークエスト)では、loot(戦利品)分配する際に当たり前のように「/ran 100」コマンドをバンバン打ってましたし(これが今回話題の「ダイス」と同じ機能をもつチャットコマンドです)、当時から外人同志がゲーム内通貨を賭けていました。そして中国系と見られる業者によるRMTも横行していました。過去の法的判断がどうだったのかを含め記事にしていただけるとより嬉しいですね。

 ちなみにこの記事の翌日のスクウェア・エニックス社の株価は暴落、日本経済新聞は30日大引け後の同社に対するコメント記事の見出しでスクエニHDが急反落『ドラクエ10で賭博行為』」という記事を掲載しています(繰り返しますが、全く新しいことではありません)。

 対してスクウェア・エニックス社の30日のコメントは極めて大人の対応です。
「昨日(8月29日)、一部報道機関において、当社が提供するゲーム「ドラゴンクエストX 目覚めし五つの種族 オンライン」におけるダイス機能につき、やや踏み込んだ論及がありました。(中略)「ドラゴンクエストX」におけるゲーム内アイテム、ゲーム内通貨は無償で提供されているものであります。また、お客様同士のアイテム等の交換行為は、当社が主体的に実施しているものではなく、かつ、外部ウェブサイトでのアイテム等の売買は利用規約において禁止しております。したがいまして、当社が賭博罪・賭博開帳罪に問われる可能性はないと認識しています。」(同社ホームページ)

 会社の社風というか、社格のようなものを感じます。以前に野村證券がある個人のコメントに対し、企業価値毀損の損害賠償をとりそうな姿勢をとりました。その個人は「野村證券は潰れる」などと述べて若干の注目を集めましたが、この不景気のもと、同社はきっちりと欧州事業を再構築し、2500億円の利益体質に持っていくぐらい元気になってきました(野村証券が大人の対応をしていないということではありません)。

 日本の一部では、ゲームというだけで「ネタがあれば」叩くという風潮がまだ残っています。一方で善し悪しを含め分析・開発の対象とするのが、研究としての視点ですね。

2012/10/12追記
 「ゲーム内通貨の昨今の価値の変化(コンプガチャ問題後の消費者庁の見解の変化など)」を踏まえた記事とのことでしたので、一部納得できる部分もあり、上記記載について表現を変更しました。このあたりは自身の研究分野にも関係するので、賛否両論含め興味深いところです。