日本において太陽電池産業は曲がり角か?

 経済波及効果分析というものがあるのですが これはある分野の需要の増加により、その需要増加が直接に関係する効果と、その需要により新たな生産が連鎖的に生まれ間接的に生み出される効果を計算するものです(結構、簡単に算出できます)。間接効果は連鎖的ですから、新たな需要が次々と需要を生み出すため、経済波及効果を分析しその金額を合計することで、よくニュースなどで聞く「○○が出来ることによる経済効果は○○億円」みたいな数字が出てきます。

 2〜3年前、日本の証券市場では太陽電池に関連した会社が人気を集め、それらの会社の業績見通しも明るいものでした。特に波及効果という視点で見た場合、太陽電池を生産することで、付随する産業の業績も上昇します。

 しかし昨日の日経のニュースサイトでは、太陽電池の裏面保護シートを製造していたある会社の急速な収益悪化が記事になっています。裏面保護シートはその名の通り、パネルの裏を外気から保護するものです。記事によるとこの会社は、昨年の4〜6月の四半期は過去最高益を出していたにも関わらず、その後急激に業績が悪化し四半期赤字に転落したとのことです。その原因は欧州をはじめとした太陽電池の需要の低下と、中国企業の台頭による太陽電池の価格の大幅な下落ということです。

 もちろん影響は関連産業のみならず、元の太陽電池を製造する企業の業績見通しにも影響を与えています。既に各社とも当初の中期計画の見直しを余儀なくされています。このように太陽電池産業を取り巻く環境は、昨年夏頃よりかなり厳しく変化しています。

 少し前置きが長くなりましたが、では日本において太陽電池産業は価格競争に巻き込まれ、成長が期待できない分野となってしまうのでしょうか。環境変化が劇的とはいえ、この太陽電池のような流れは、ほぼすべての分野で起こるものです。製品のライフサイクル理論に照らし合わせれば、このような一般的なサイクルに対し、企業はイノベーションで次の手を打ちます。

 現在はシリコン系といわれる太陽電池が主流です。太陽電池のもっとも重要な性能は、出力電気エネルギー(W)を太陽光エネルギー(W)で除して100を乗じた変換効率(%)であらわされます。要は太陽電池に90°(垂直方向)で太陽光を当て、どれだけ電気になるかということですが、これが100%にならない理由は反射や吸収できる波長、電子の消滅や非発生、電気抵抗などが挙げられます。これらを個々に克服すれば変換効率は上昇します。

 確かにシリコン系の変換効率は20%台と、他のものに比べ圧倒的です。しかしここ数日のニュースでは、製造コストがシリコン系よりも安価な有機薄膜太陽電池が変換効率10.6%を達成したそうです(日経新聞サイト2012/2/14 19:07)。これは米国のカリフォルニア大学ロサンゼルス校(UCLA)と日本の住友化学との産学連携の成果とのことで、UCLAの短波長吸収と電気的損失の減少の技術と、住友化学の高効率の長波長吸収の技術を組み合わせた形です。2015年までに変換効率を15%まで上げ、実用化を目指すそうです。

 従来のシリコン系を主力とする個別の太陽電池の製造企業は、中国などの後発コピー大国に価格競争で負けてしまうかもしれません。しかし日本でも、同産業に属する他の企業を見渡すと、新しい技術の実用化がなされれば明るい展望が見えてきます。そのような意味で、日本において太陽電池産業は価格競争に巻き込まれ、成長が期待できない分野かどうかと言われれば、産業全体としてはそうでもなさそうです。もちろんその前提として、日本においても従来とは比較にならないレベルでの産学連携機能の強化が必須です。