東京電力は倒産しない?④〜エッセンシャルファシリティの面倒は国がみる!〜

 当然の結論といえばそうなのですが、ようやく東京電力の今後のあり方について具体的な方向性が見えてきたようです。「東京電力の一時国有化案、政府内に浮上」(読売新聞web 3月29日(火)3時3分配信)とのことです。原発事故に伴う賠償が巨額になっても、国などが東電の株式の過半を取得し、経営を支える」(同配信の引用)という内容です。

 政府は最悪の場合、先週25日に記載したブログの2つ目の案、「公共性の観点から政府が新株を引き受ける(いわゆる国有化)にしても、現在の純資産を大幅に上回る支出が確定した場合においては、同社は債務超過であり、既存の株式の価値は失われているに等しいわけですから、既存の株式の価値を残したまま増資という可能性はほとんどないといえます。いわゆる『100%減資』が実行される可能性が高く、既存の株式の価値を0にしてから新株発行という流れになるでしょう。この場合、既存株主としての権利を失うものの、東京電力という会社の存続にはなります」(25日のブログ)という形を基本的に想定していることになります。

 では、利害関係者からすると、どのような影響が出るのでしょうか。今回、原発事故に伴う補償を受ける権利のある人々にとっては、東京電力という会社が残ること、また政府が面倒を見ることで賠償を受けられなくなるという心配はなくなります。また東京電力の顧客である電力需要者も、引き続き電力供給サービスを受けることができます(ただし日本の国家財政の状態からすれば、国有化されたから安心というものでもありませんが…)。

 問題は既存株主ということになります。もちろん国有化が決定したからと言って、必ずしも100%減資が決定したわけではありません。それは東京電力が負うべき負債金額によります。要は株式としての価値がどの程度残っているかということです。また債務超過が必ずしも「株式の価値=0」を示すわけではなく、例えば東京電力のビジネスモデル、収益力がこの債務超過を2〜3年で解消できるものであれば、1株純資産がマイナスであっても、株式の価値が0であるとは結論づけられないでしょう。

 ただし国有化になる前提が、冒頭に引用した記事にあるように「賠償が巨額」ということですから、この前提において既存株主にとっては厳しい結果となることは想像がつきます。

 ここで政府がどの程度の柔軟性をもって東京電力のあり方を検討しているかは不明です。今までの政府による処理のような、ワンパターンなやり方しか方策がないわけではありません。たとえば私のような企業の政策学、経営学を専門にしているものからすれば、ウルトラCを含む様々な方策を考えることができます。その一例として、既存株主の権利を守りつつ東京電力自己資本を復活させるならば、国有化のまえに(債務超過の額が少なければ)株主割当増資という手立てをとるということで債務超過を防ぐ(100%減資を防ぐ)、または(債務超過でなければ)純粋に増資による第三者への割当による希薄化を防ぐ目的で(株主割当増資により)自己資本を増強するという手段があります。このあたりは何を重視するかという考え方により、様々な方策を繰り出す選択肢が残されています。 

 このような時に世論を気にしすぎたり、感情論に流されると、結果としての最良の選択を逃してしまうことになります。東京電力経営陣と政府の双方による冷静で賢明な対応を期待します。

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 ここ数日は、東京電力の経営という、私自身の研究分野の一つである企業政策関連のニュースが続いたため、ブログもその内容が続きました。もちろん日常生活も年度末ということで様々に変化が起こりつつあります。

 4月からは2010年度の大手前大学の前期の授業最終日以来、半年ぶりにクラスの授業を担当します。先ほど学内のポストを見るとシラバス集がどさっと入っており、「もう4月の授業がはじまる」という気分から現実に戻ります!(笑)

 そして先ほど出版社様より教科書「教養のミクロ経済」萌書房,2011年,2310円 が週末に完成しますとの連絡がきました。このたびの震災により、西日本の印刷所に注文が殺到し、紙の確保を含め、製本までが大変だったようです。萌書房様、そのような中、出版を授業開始に間に合わせていただき、本当にありがとうございました(感謝)。

 
 (「教養のミクロ経済」萌書房 2011年4月発刊予定です)

 2011年度は、本務校の福井大学では共通教育の「現代社会とビジネス」「現代社会とキャリア教育」や大学院博士後期課程・実践道場科目の「企業戦略概論」、その他に教員免許状更新教習科目「会社の仕組みを知る」を担当します。兼任として、京都大学「新産業創成論」の1授業や、大手前大学の社会人を対象としたeラーニングによる通信教育課程ミクロ経済学」「ITビジネス論」を持たせていただいています。

 高度情報社会になり、大学の授業もインターネットで受講できるようになりました。身近なミクロ経済に興味のある方は、大手前大学の「ミクロ経済学」をぜひ科目受講してみてください。また実際の大学での授業ですが、福井大学も「現代社会とビジネス」を市民開放枠として5名だけ確保しています。

 今の日本の状況だからこそ、4月からの新学期の授業、気合を入れて行い、少しでも日本産業の復活と発展に役立ちたいと思います。