東京電力は倒産しない?③〜理論では説明できない「東京電力が不死身」な理由〜

 東日本大震災発生当日からアメリカのYahooをはじめとする海外メディアの情報を見てきて、当初は日本の政府発表との捉え方や見解の違いを激しく感じましたが、ここにきてようやく情報が同期化・同内容化されつつあるように感じます。決して政府が情報統制をかけていたとは思いませんが(思いたくありませんが)、状況の変化があることを踏まえても、やはり当初の国内における情報公開には疑問が残ります。

 さて、先週、24日、25日のブログで東京電力の今後について、今後支払うべき金額によっては債務超過にもなり、仮定(可能性)の話として会社としての存続の危機について触れました。しかし先週に触れた内容はあくまでも教科書的な話であり、言うまでもなく現実の社会が教科書(理論)どおりに動くわけではありません。ふと昨年、一昨年に会社更生法を申請した武富士事業再生ADRを申請したアイフルの話を思い出しましたので、関連させながら記載してみたいと思います。

 (私はあくまでも政策学、経営学の分野の人間ですので、工学技術に関しては国内外のメディアから得た範囲の情報しか前提にできません。よって前回のブログ内容ともども、その帰結としての同社が負うべき賠償範囲が確定後の東電の経営や国のインフラ政策に関する話をしています。)

 まず消費者金融業界とどの点で関連するのかを説明すると、ファイナンスの時間軸に関してです。また産業分類こそ全く違えど、消費者金融業界と今回の東京電力が受けた損失に関しては、②日本の政策に関連した被害という一面を持ち合わせます。

 消費者金融業界では武富士を筆頭とした大手4社といわれた時代があり、その4社とは武富士アイフル、プロミス、アコムを指します。この業界ではかつて出資法で定める上限金利29.2%/年と、利息制限法で定める上限金利15%〜20%/年(金額により異なる)という、いわばダブルスタンダードともとれる2つの法解釈が存在しました。いわゆるグレーゾーン金利といわれたものです。

 この業界が断崖絶壁を転げ落ちるようなキャッシュフローの悪化(業績悪化ではありません)のトリガー(きっかけ)となったのが、2006年1月13日の最高裁判決です。この判決により事実上、グレーゾーン金利部分は無効となり、消費者金融会社各社の収益を圧迫するようになります。さらに現在に至るまで、このグレーゾーンで受け取っていた金利に対し返還を求める訴訟が相次いでおり、業界各社はその支払いに追われています(この状況下で暗躍するヤミ金融の増加と一部過激ともいえる弁護士や司法書士による広報活動、および付随する問題にも目を向けなければいけません)。

 グレーゾーン金利が廃止されたことにより、経営環境が悪化したため、同業界から撤退する事業者が相次ぎました。そのような中、かつての大手4社の業績も大きく低下し、過払い金返還に追われることになります。既に2004年3月にアコム三菱UFJフィナンシャルグループと、同年6月にプロミスは三井住友フィナンシャルグループと戦略的提携関係を結んでいたため、この2社についてはこれら金融機関の後ろ盾もあり、現在も過払い金返還のファイナンスは乗り切れています。しかし真っ先に行き詰ったのがアイフルです。アイフルは2009年9月に事業再生ADRを申請し、再生計画案のもと債務調整をすすめています。また武富士は2010年9月に会社更生法の申請を行いました。

 最高裁判決の争点をみれば、確かにダブルスタンダードとはいわないものの、消費者金融業界はこのように政府が定めた2つの法律の存在により、その被害を被ったといえます。その結果、潜在的な額も含めた「兆円」という単位の、自己資本を上回る多大な過払い金返還を抱えることになりました。

 会社更生法を申請した武富士にしても、当初は自主再建で乗り切れると考えていたようですが、会社が想定した以上に過払い金返還の請求ペースが積みあがってきたというのが現状です。同社は今後も年百億円を超す利益を生み出す利益体質であったことから、返還請求のペースが遅ければ資産売却と合わせ、この危機を乗り切ったのかもしれませんアイフルにしても同様です。

 このように利益を生み出す体質の企業であるにも関わらず、思わぬアクシデントによりファイナンスの危機に立ってしまったというのは、東京電力武富士の双方に共通します。

 東京電力は国策により原子力発電を推進し、またその原子力政策の推進は今後の日本の電力供給にとって「必要不可欠」なものでした(コスト、二酸化炭素排出などを考えなければ「必要不可欠」とまでは言いませんが、多面的に捉えると現実問題としてそういわざるを得ないでしょう)。その意味においても、性質は全く違えど、国の政策の被害を被ったという点でも似ています。

 では万が一、支払いが必要とされる金額が過大になった場合、東京電力も会社更生措置を取らねばならないのでしょうか

 現実的には東京電力が今後生み出す営業利益と時間軸、事業の独占形態、需要の価格弾力性を加味する必要があります。

 理論通りにならないとはいうものの、日常経済は理論に従う部分も数多く存在するわけです。まず東京電力の事業形態は政府に権利を与えられた独占(地域独占)です。独占とはすなわち価格支配力をもつことに他なりません。しかも東京電力の価格支配力というのは尋常ではありません。本来、いくら価格支配力をもっていて(政府による承認の有無は別として)自由に価格を変更できるとしても、一般的な財では価格を上げると需要は減少しますから、暴利を得ることは現実として不可能です。

 しかしインフラとしての電力は、価格の上昇に対する需要の減少が少ない(ミクロ経済学でいう需要の価格弾力性が低い)財です。これは食料などの必需品に見られる特質です。すなわち何らかの理由をつけて価格を上昇させることができれば、従来以上に十分な利益を生み出すことが可能です。既に震災後に電力価格の値上げを表明しています(こういう点はしっかりしているといえますが、それよりも先にやるべきことがあるだろうという非難を受けても仕方がないですね…)。

 このことを踏まえ、仮の数値で単純化します。すべての支払いに必要な金額が3兆円として、内部留保他人資本から2.5兆円しか調達ができなかったとしても、上記の価格の値上げを行い、支払いを終える期限までに残り0.5兆円以上の利益を積み上げれば、何ら問題なく企業としての存続が可能ということです。つまり今後想定される和解や訴訟に関し、「時間軸を伸ばす」(言葉はよくないですが「時間をかける」)という方法が考えられます。

 ここが会社のファイナンスの状況として、(内部留保+今後会社生み出す利益)が(時々に必要な支払い)に追われるであろうという消費者金融各社と似ていながらも、しかし東京電力が不死身「かもしれない」といえる部分かもしれません。もちろん限度があります。支払いに必要な金額が大きくなればなるほど、前回のブログで記載した「会社」としての存続が危ぶまれる可能性が高くなることに変わりはありません。

 今回も繰り返しますが、あくまでも被害は小さいに越したことはありませんし、そのように願っています。

P.S.

 本日、朝のFM福井「Life Is」という番組の「Toy Box」というコーナーで、別件で少しお話をさせていただきました。どなたか録音されていませんでしょうか。って、ラジオを録音する人はいませんよね…。