東京電力は倒産しない?②〜既存株主の権利から見る東京電力の今後〜

 昨日のブログで、東京電力の今後について、①電力という東日本のインフラを担っていることから、その機能の存続が必要なこと、②原子炉処理から再構築、そして賠償に至るまで今後想定される莫大なコストが東京電力の財務を極めて悪化させる(その結果、株式としての価値が失われる)ことを記載しました。

 特にファイナンスの視点から、同社が今後負担すべき金額が、現状保有する純資産額を上回るかどうかが同社の今後についての重要と記載しました。その後、同日24日、新たに「農産物についても、風評被害が及んだ場合、原子力損害賠償法に基づく補償の対象とする方針」が発表され、「一義的に東電が負担するが支払い能力を上回る場合は国が支援する」とされています(以上、読売新聞web)。

 「一義的に東電が負担する」ということは、その言葉の通り義はひとつ、東京電力による負担しか考えられないということです。その「支払い能力を上回る場合は国が支援する」ということは、現政府は補償が東京電力の支払い能力を上回ることを想定していることに他なりません。では東京電力の会社としてのあり方をどうしようというのでしょうか。

 冒頭の①電力という東日本のインフラを担っていることから、その機能の存続が必要なことは前提として外せません。しかし(仮定の話として)現在の純資産を大幅に上回る支出が確定した場合、会社としての体を成すには、「1.大型で長期の融資により債務超過の状態で運営」または「2.増資による資本注入により運営」を行わねばなりません。

 昨日の内容と重なりますが、「1.大型で長期の融資」を受けるには、その債権者となる金融機関が必要ですが、純資産という担保以上のリスクテイクをすることは元本の保証が前提となる民間金融機関では不可能であり、日本政策銀行を通じた危機対応融資の適用においても無制限というわけにはいきません。現在の純資産を大幅に上回る支出が確定した場合において、この形が唯一、既存株主の権利を存続したまま乗り切れる可能性のある方法ともいえますが、現実的にはかなり厳しいと言わざるをえません。

 なお東証上場廃止基準に「債務超過の状態となった場合において、1年以内に債務超過の状態でなくならなかったとき(原則として連結貸借対照表による) 」なるものがあります。この観点からも、各種の短期費用が3兆円を大幅に上回る負担となった場合、同社の既存株主にとっては、流動性を失う可能性も出てきます。

 「2.増資による資本注入により運営」という形ですが、同社の企業価値が既に毀損している現状において、増資の受け皿を見つけることは困難といえます。万が一、公共性の観点から政府が新株を引き受ける(いわゆる国有化)にしても、現在の純資産を大幅に上回る支出が確定した場合においては、同社は債務超過であり、既存の株式の価値は失われているに等しいわけですから、既存の株式の価値を残したまま増資という可能性はほとんどないといえます。いわゆる「100%減資」が実行される可能性が高く、既存の株式の価値を0にしてから新株発行という流れになるでしょう。この場合、既存株主としての権利を失うものの、東京電力という会社の存続にはなります。またこの場合、DIPファイナンスと呼ばれる短期のつなぎ資金の供給手法をとり、民事再生法等による倒産手続き(100%減資)後、旧経営陣がそのまま経営を続けるという可能性も残ります。

 ではこれ以外の方法として、どのような可能性があるでしょうか。これ以外の方法としては、東京電力を完全になくすという形になるわけですが、その場合は「3.他社に事業を譲渡するもしくは新設立会社に事業を譲渡」となります。ただしこの方法をとる場合は、会社がなくなったのち、被災者が同社に保証を求めることが不可能となりますから、それまでに損害を確定させることになります。または今後の新たな損害賠償訴訟は提起できないため、政府が保証を行うことが前提になります。

 今回の事例で特殊なのはやはり「電力供給機能のインフラとして不可欠な存在」という点です。このような公共性をもち、大型のインフラ設備(送電線、発電所など)を必要とする事業では、政府が独占の権利を与えているため、同一地域において他に競合、代替会社がないという欠点が表に出た形になります。

 これはエッセンシャルファシリティとかボトルネックファシリティといわれるもので、サービスや財を提供するのに不可欠な施設という意味です。特に規模の経済(規模による効率性)の観点から、同一地域に2つ存在することが(電線が2社並行して走るなど)不経済であり、他の競争者が参入しづらいものとなっています。

 東京電力という会社単体の今後もさることながら、今後の日本のインフラ政策について、電力供給においても独占状態を見直さなければいけないかもしれません。もし「3.他社に事業を譲渡するもしくは新設立会社に事業を譲渡」という選択肢を取るならば、電話事業者のインフラ問題で議論されている「アクセス回線分離」(電話線などについて、NTTからKDDIなどの他社が賃借料を払い利用する形ではなく、NTTから分離し共有のものとしてNTTを含めた全社が賃借料を支払う形にするという考え)のように、電力供給会社を同一地域に複数設置し、そのうちの1社に問題が起こった場合においても、危機対応ができる形というのも検討すべきかもしれません。

 なお、最後に重ねて記載しますが、この東京電力の今後については、同社が支払うべき金額が過大になった場合を前提としています。被災地の方々のことも考えると、この金額が少なくて済むことに(少ない範囲の被害であることに)越したことはありません。