中国人が日本を買い漁ることに不快感を感じる理由

 中国企業が、日本の企業、土地、その他を買い漁っています。この事実を知って不快な思いを感じない日本人はいないと思います。

 ではなぜ不快なのでしょうか?ある経済関係の読み物に、米国人の感情についてこう書かれています。米国人にとって、バブルの時代、日本企業がロックフェラーセンターをはじめ、多くの米国資産を買い占めました。そのことを米国人が嫌った理由は、日本が米国に敗戦したから、つまり敗戦国に買い占められているからということだそうです。今、中国企業がやはり米国資産を買い漁っています。そのことを米国人が嫌う理由は、中国人が共産主義者だから、つまり防衛上の脅威国であるからだそうです。

 では私たち日本人の場合は、最初に提示した不快感の原因は何でしょうか。私は米国人が日本と中国に感じた2つの感情の双方だと思っています。

 つまり1つめは米国が日本に抱いた感情、敗戦国である相手が経済的に優位にあるという状態です。「中国は日本に敗戦していない」という主張があることを承知の上で述べます。しかし日本人の考えはどうでしょうか。日本人の中では(少なくとも私の中では)、日本人は中国に戦争で負けたと思っているでしょうか。日本は先の大戦で米国には負けましたが、世界大戦とはいえ中国に負けたという感覚を持ってはいません。また経済的に中国は長らく日本の劣位にあったのも事実です。これらから、日本人が中国の買い漁りに不快感を感じる理由は、米国人が日本に抱いた感情と似ていると思います。(なお「中国は日本に勝った」などという中国人がいれば、あえて言いたいこと、それは「勝ったという国が中華民国である台湾」であるならば、百歩譲ってまだ納得します。)

 2つめは米国人が中国に抱いた感情、言うまでもなく防衛上の脅威です。事実だけを述べても、中国では戦後の政治の混乱(革命)の中で、恐ろしい数の人殺しが行われています。どん欲なまでの領土拡大意識をもって、多くの国々と対立しています。未だに言論の自由、その他、人としての権利を認めていない国です。そのような国がすぐ隣にいるのです。その国が経済的にも力をつけてきて、GDPで日本を抜いて世界第2位になりました。脅威以外の何物でもありません。

 この考えのもとになった、冒頭のある経済関係の読み物とは、次の本です。「ハーバードの『世界を動かす授業』〜ビジネスエリートが学ぶグローバル経済の読み解き方」(徳間書店,2010年)です。この仰々しいタイトルに惹かれ、読んでみました。最初はかなり構えて読み始めましたが、実際には米国の学者が各国経済について語っている授業の講義メモのようなまとめ方がされており、とても読みやすいものです。

 筆者は、リチャード・ヴィトー氏と仲條亮子氏の共著となっていますが、おそらく仲條氏がリチャード氏の授業に出て、その内容をまとめたものではないかと思われます。話の展開もうまくつなげられているので読みやすいです。このような形態の出版もいいものだなと感じました。

 日本人がまとめたということから、どうしても日本経済との絡みが協調されます。この点が一番の特徴であり、良い部分だとも思います。しかし日本人学者が日本経済を分析するのとは違う点が随所に見られ、新鮮さを感じます。

 前半では、戦後の日本経済がなぜ躍進したのか、という内容を解説しています。この問いにコンパクトな答えを得るのは意外に難しいものです。この書では、戦時中の1ドル4円だった為替レートが戦後には1ドル360円に固定されたことが追い風になったこと、その結果、日本企業は市場を米国に定め、国内の寡占により規模の経済を達成し、安く作り高く売るという仕組みを作ったこと、また欧米人向けに付加価値の高い製品に特化したことなど、いくつかのポイントに絞られています。言われてみれば教科書的で当たり前のことなのですが、日本経済だけを学んでいると、このような客観的に見たまとめは少し難しいのかもしれません。

 日本で日本経済を一通り学び、雪だるまのような知識の積み上げを行った人が、軽いノリで読むと、知識の整理をしやすい内容の本だと思います。そういう意味でいい本だと思います。

 きっと海外で日本経済の研究を行えば、このような見方ができるようになるのでしょう。その意味では、日本人がある程度日本で学び(または働き)、40歳前後になって海外で日本経済を研究しだすと、今の閉塞感漂う日本経済をグローバルな視点で捉えることができ、その問題解決方法を導けるのかもしれません。