起業家精神(アントレプレナーシップ)こそが日本を変える!

 このキャッチフレーズ、私はもちろん否定はしません。ただ、その前にもうひとつ重要なことが抜けています。

 この言葉は、11月1日に行われるシンポジウムのキャッチフレーズです。日本ベンチャー学会のほうから、さきほど下記の案内がまわってきました。

日本ベンチャー学会スタンフォード大学東京大学産学連携本部連携シンポジウム“起業家精神アントレプレナーシップ)こそが日本を変える”“Entrepreneurship”: The Key for Japan’s Revival」

 【日時・会場】・2010年11月1日13:00〜17:00 ・一橋記念講堂(竹橋・神保町)
 【参加費】無料

 私が京大VBL研究員をしていた時代に、VBLに年1回講演に来られていた東大の各務先生もお話をされるとのことです。ぜひ聞きに行きたいのですが、確かこの日は起業教育研究プロジェクトの予定日なので、時間が合わず残念です!

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 そこで、なぜこのキャッチフレーズを今日のブログのタイトルに出したかといいますと、やはり日本は起業の数が相対的に少なく、問題となる部分であるからです。(数値的根拠は、総務省「事業所・企業統計調査」による開業率、廃業率調査のほか、各国の起業準備者の割合を算出したEEA(early stage entrepreneurial activity)という指標からも示せます)この原因で、よく言われるものの一つに、日本人はリスク回避型の思考をもっているからとか、儒教(仏教?)の教えの国だから、果てには農耕民族だからとかいう人もいるのですが、本当でしょうか?(大体、この現代社会において、農耕民族とか狩猟民族とか何のことですかw それをいうなら、我々日本人はクジラを捕獲していますが、これは狩猟ちゃうんかいと。「文明開化」はとうの昔の出来事です)

 仮に少なからずそれらが影響していると仮定しても、私はもっと大きな原因があるのではないかと思っています。たとえば以下のような質問を、日米の双方の起業環境を知る起業家、キャピタリスト、研究者にしてみるとどのような結果がでるでしょうか?

 「日本とアメリカ、どちらで起業したいですか?」

 きっと日本人、アメリカ人を問わず、アメリカを選ぶ結果になるでしょう。(言語の壁や、地の利とかの要因は棄却してください。)要は「日本人だから、とかいう以外に、起業をしない何か別の要因がある!」といいたいわけです。

 では、先ほどの質問の予想される回答の原因を、かなり大雑把に言ってしまうと(実際には様々な要因があるのですが)、「日本は失敗が許されない風土」とか「日本は失敗した人には投資しない風土」と言われるものです。この要因に対し個人的には大筋で合意するものの、正確に述べると「失敗が許されない」というよりは、多くの日本人が「失敗の先に成功があることを認識していない」ことが原因だと私は考えています。つまり、日本人のリスク回避型思考(この思考の存在は否定しませんが、むしろこの思考は先天的なものではなく、環境により形成される後天的なもののはずです)とか、儒教か仏教かお経か線香か何か知りませんが、そしてハタマタ野菜を食べようが肉を食べようが関係なく、実は起業家予備軍となる人の内部に起因するものよりは、その人たちを応援する側に問題があると思っています。

 このような私の考えの裏付けまではいかないですが、私の意見を肯定的にとらえることができる言葉として、アメリカでは、「失敗しても再起が可能な風土」とか「失敗を経験した人にキャピタリストは投資をする」と言われます。たしかこの話は各務先生の講演でも聞いた覚えがあります。

 すると、まさに我田引水なのですが、起業教育とは起業家予備軍本人の教育だけでなく、起業家の周りにいる人々、つまりすべての日本国民が対象になると考えられます。

 起業教育の研究を始めた数年前から、常に「起業教育?経営者を作る教育ですか!?大事だと思います。」と言われ、そのたびに「起業しようと思う人は日本にも多くいると思います。しかしその人たちを応援する環境が未熟なので、日本人全体として起業教育、金融経済教育が大事だと考えています。」と返し続けました。もちろん起業家を作る教育もまだまだ高みを目指さねばなりませんが、その前に起業家を応援する環境が大事だと考えています。

 最後に補足ですが、私は2000年前後にはベンチャーの直接金融市場の研究をしていました。日本においても、このようなリスクマネーを還流させる市場を成功させようと尽力されてきた、尊敬すべき人々と多くお会いしました。しかしその人たちの努力もいまだ結実せず、結果として十数年たった今も同市場は成功したとは言えません。リスクマネーが還流しない理由、それは日本人が、投資家が、「リスクとは何たるかを知らない、株主の権利を知らない、そのほか知らないことだらけだから」です。当然です。我々はそのような教育を学校教育で学んでこなかったからです。米英の金融経済教育の教科書を翻訳して学校で配ってもいいくらいだと思っています。

 話を元に戻すと、このような市場にも多くの起業家が、多くの方が志を持って参加していました。以上に述べてきた事実からも、日本を変えるには、「起業家精神の更なる教育、それも結構!しかしまずはすべからくすべての日本国民が起業教育、ないしは金融経済教育を習得すること」といいたいと思うのです。