日本は大航海時代のヴェネツィアとなる危惧!?

 日本領海内、尖閣諸島近くで、中国漁船による日本の海上保安庁巡視船への体当たり(公務執行妨害)が、いまだに日中間で問題となっています。中国は日本の企業の社員を拘束し、また日本への輸出品の検査を厳格化するという方法で、(時間がかかりすぎることで積み込みが間に合わず)実質的に日本への輸出を制限するなど、露骨な対抗措置を取っています。

 その一方で、日本政府は、国内法に基づき裁かれるべき当該事件に関し、拘置期限より五日も早い段階で、彼らを処分保留のまま解放しました。これは法治国家として法に反する行為に該当する可能性もあります。

 これらの日本政府の行動は、「弱腰」とか「譲歩」「お人よし」というレベルではなく、「不思議」な行動の域に達しています。海外メディアも種々報じている通り、完全に失策です。

 ここで起業教育とどういう関係があるのかといいますと、このような対応の政府のもと、安心してビジネスができるのかということを述べたいと思うのです。少し話を1600年前後の大航海時代、ヨーロッパに移したいと思います。

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 現在の株式会社会社の誕生は1602年のオランダ東インド会社といわれています。(1600年のイギリス東インド会社は、会社は会社でも、現在の株式会社とは内容が違いますので。)

 この時代は、まさに大航海時代の真っ只中です。簡単に歴史を振り返りましょう。

 当時の香辛料貿易は、地中海の出口に位置する立地的条件から、ポルトガルが優勢でした。そこでスペインはポルトガルの影響が及ばない航路、つまりアフリカ喜望峰ルートを通らない「西回り航路」を探ります。

 15世紀後半に、地球球体説を信じ、スペインの援助を受けて、西回り航路を探ったのがコロンブスです。しかし、トスカネリによる地球の大きさの計算が実際よりも小さかったため、コロンブスアメリカ大陸を発見したとき、これをアジアだと思いました。

 16世紀に入り、コロンブスがなし得なかった西回り航路の発見に再度チャレンジしたのがマゼランです。南アメリカ大陸から西側の太平洋に抜けるのに苦労をし、またあまりにも広かった(そしてあまりにも平和だった)太平洋を横断するのに大きな苦労をしましたが、彼は見事フィリピンにたどり着きました

 1600年前後は、香辛料貿易が巨万の富を生む時代であったことから、航路発見という国家の大型プロジェクト(現代風の言い方ですが…)も重要な役割を占めたわけです。

 西回り航路発見後、その航路はあまりにも実用性に欠けたため、結局のところ、貿易ルートとしては機能しませんでしたが、このような国家のプロジェクトを行う時代背景からも、遠距離貿易がビジネスとしてどれほどの重要性を占めたかが推察できます。

 そしてその大きな規模の貿易を行うには、船を調達し、乗組員を雇い、貿易物資を積み込むといった投資を行わねばなりません。一個人や中小の商人の集まりが、できる規模のものではありません。よって1回、1回のアジアへの航海(貿易)に対し、多くの人から出資を募りました。そして船が戻ってくれば、その莫大な利益を出資分に応じ分配するというように、現代の株式会社形態の原型ができました。

 当時は、1回、1回の航海ごとに清算するという点が、現代の企業のゴーイングコンサーン(企業の継続性)とは異なりますが、それでも十分に現代の株式会社のルーツといえます。

 この時代、国の軍事力、国による航海への大型プロジェクト、そして個々の商人による貿易、これらはまさに一体でした。商人であろうが、船に国旗を掲げて貿易していました。きっと商人も自国の誇りを胸に抱いて、商売をしていたのだろうと思います。そしてその商売をする商人も、航海を行い新しい航路を発見する冒険者も、国家の軍事力その他による保護があってこそ、安心して貿易ができたといえます。

 それはスペインや北欧の国々が繁栄したことからも理解できます。その一方でヴェネツィアが凋落していったのも、位置的な不利はあったにせよ、軍事力や国家力という点から納得がいきます。

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 このような昔話から私が思うことは、残念ながら日本は現代のヴェネツィアになってしまわないかということです。ヴェネツィアはそれは美しい都で、商売も繁栄していましたが、結局、地理的にはアドリア海の奥という不利、隣にトルコという強大な国があり、国策が下手だったかどうかは別として(個人的には少なくともスペインやオランダ、イギリスなどと比べれば、上手くはなかったと思っています)、苦しみながら徐々に衰退しました。

 その一方で、現代の日本は石油の輸送ルート(いわゆる「シーレーン」)を見ても極東という不利な地理的条件、隣にはトルコ(*)ならぬ中国という大国が着々と日本を浸食している。そこに便乗し北方領土視察を行うロシア、次は我が身と中国を恐れながらも横目で平静を装う(?)韓国や台湾。

 歴史には種々、繰り返される出来事が多く存在しますが、昨今の外交事情(日本の国策の下手さ)が現在の日本のビジネスに及ぼすであろう悪影響まで危惧してしまうのは、少し考えすぎでしょうか。ある意味、現政府やアメリカが日本国民に対し、ポイントを稼ぐいい機会だと思っているのですが、日米がそのチャレンジをする勇気があるかどうかも見ものです。

(*)
 ちなみにトルコと日本はとても友好的な関係を築いています。話が長くなるので、そちらはまた別の機会にでも!^^

(注)
 私はヨーロッパ史の専門家ではありませんので、歴史に関する若干の誤認識があった場合は、どうかお許しください。