福井市のプラネタリウム設置案について−JR福井駅西口再開発ビル再構築案−

 今朝も雪のためえちぜん鉄道で出勤です。電車が来る時間を気にしながら、何気なくテレビのニュースを見ていると、JR福井駅西口再開発の話題が耳に入りました。昨夏より話題に上がっていたプラネタリウムの設置もほぼ予算などが固まったようです。ちなみに専門とは全く違いますが、私はプラネタリウムが大好きです。夜景を見るのが好きな点と共通するところがあるのかもしれません。

 さて、このJR福井駅西口の再開発は、福井市が推進しており、当初駅の西側の広いスペースにビルを2棟建てる計画でした。しかしNHK福井支局の誘致を断念したことで1棟に変更しています。商業施設、マンション、子ども預かり所やボランティアセンターなどの複合施設に加え、NHK福井支局誘致断念の代わりの目玉としてプラネタリウムを設置し、また駅とビルとの間は屋根付き駅前広場にするとなっています。屋根付き駅前広場については、県のほうからの理解(補助の確約)が得られていないようですが、県の補助が出なくても市が強引に進めるそうです。問題はプラネタリウム設置なのですが、「今後の運営を考えると、大丈夫なのか」と心配になってしまいます。

 まず公表されている数値から見ていくと、「総事業費110億円のうちプラネタリウムの整備に15億円、プラネタリウム関連部分は昨夏の提案時より400平方メートル拡大し、2千平方メートル」(福井新聞WEB、2012年2月3日午前8時43分)とされています。増床予定前の年間運営コストが市試算で「プラネタリウム年間経費7千万円」(同WEB、2011年9月22日午前7時40分)ということですから、増床を考えるとこのコストも増加する可能性があります。

 収支を考えるため、プラネタリウムの規模が大きいのかどうかについて調べてみました。日本プラネタリウム協会に問い合わせてみたところ、半径12mの場合、比較的新しい施設ではゆとりをもたせて80席ほどとのこと(旧施設の場合は120席ぐらいとのこと)です。ドーム径(半径)12mということは452.16平方メートルですが、これは円状であることや機器の準備スペースなどを考えると500〜600平方メートル規模と考えるようです(24m×24mで576平方メートル)。

 このたびの福井駅西口再開発ビルのプラネタリウムでは、2000平方メートル、これが正方形に近いとして平方根をとって44.7m、少し機器スペースの余裕や長方形の可能性も考慮して、ドーム径20m規模のプラネタリウムが設置できそうです。これは当地にしては思いの外、大きいものができそうです。

 すると1256平方メートルの円、余裕をみても200席以上クラスの大規模なプラネタリウムになりますね。ちなみに「プラネタリウム白書(2005年版)」(以下「同白書」とする、なお日本プラネタリウム協会の方によると、最新の白書は現在作成中とのことでした)によると、ドーム径20m以上や座席数200席以上は、調査分類では最も大規模な区分になっています。

 座席数(予想)を計算した理由は、日本のプラネタリウムの充席率から、予想利用者数を推定したかったからです。同白書(46p)には席数に応じた年間観覧者数のデータもあるのですが、1万人に満たないものから10万人に近いところまでかなり広範に分布していたので、別の方法で予想利用者数を想定できるデータから考えます。

 同白書56pによると、日本のプラネタリウムの充席率、これは(充席率)=(年間入場者数)÷{(座席数)×(年間投影回数)}で計算されますが、平均30%弱(2000〜2003年)、座席数200席以上のところでは25%前後です。すると1日平均2回の投影回数、年300日開館と仮定して、25%=(年間入場者数)÷{(200席)×(2回×300回)}で計算し、年間の入場者数は30,000人あたりでしょうか。

 一方でこのようなデータもあります。「館が受け持つ想定人口」というもので「地方都市レベルのプラネタリウムでは、その市町村の人口を当てはめていると思われる」(同白書45p)、さらに「おおまかに見て、観覧者数は館の規模、想定人口の多少にかかわらず、想定人口の5〜10%前後の範囲に入っている」(同白書45p)とのことです。このことを考えると、福井市の人口は2012年1月1日現在、269,069人ですので(福井市ホームページ−福井市人口統計より)、年間の入場者数は20,000人前後という見方もできます。

 いずれにしてもこのように白書による根拠に基づく予想入場者数の想定では、決して収支を楽観的に見ることができません。ちなみに福井市は予想入場者数を、(なんと!)5〜6万人と見ているようです。できたばかりの1年目はまだしも、継続的にその数字が維持できるかは、かなり疑問です。その根拠はというと、プラネタリウムの年間来場者数の推計を5〜6万人と掲げた根拠について、滝波秀樹都市戦略部長は▽天体を学ぶ小学3年から中学生9500〜1万人▽学習以外の小中高校生ら5千〜6千人▽他都市の事例から類推し大人約3万人−などを列挙。『これらを積み上げ5万〜5万3千人と推計した』と説明」(福井新聞WEB、2011年9月22日午前7時40分)とのことです。学校単位で(校外学習など、強制的な方法で?)参加させる(動員する)ということでしょうか。確かに収支を考えると小中学生らの学校教育を当てにせざる得ないのかもしれません。

 しかし学校教育を当てにした根拠でいくと、福井市のすぐ隣、坂井市にある県児童科学館のプラネタリウムと競合します。実際このような意見に対しては「『県児童科学館は幼児や児童、いわゆるキッズが対象。市案は(県が一時計画した)サイエンス体験型施設とつながるものとして幅広い方々に訪れてもらう場。共存は可能』とした」(同WEB、2011年9月22日午前7時40分)とされていますが、すると先の学校教育を当てにしている来場者数の件と少々矛盾がありそうです。

 ここで収入の試算を行います。子供を対象にするか、大人を対象にするかで、入場料も大きく変わります。平均的には、「大人267円、高校生218円、中学生121円、小学生110円、幼児63円」(同白書40p)とのことです。白書のデータ等を根拠にした一般の来場者数の場合、観覧料を高めの250円として2〜3万人で500万円から750万円です。一方で児童教育を対象とした場合、福井市の来場者想定5〜6万人で(仮に)いけば、児童割合が多いことも加味して観覧料を200円として1000万円から1200万円ですが、この極めて甘い見通しでも全く採算が取れません。また実際には団体割引なども適用されるので、これより収入が下がる可能性は高いといえます。(*4/15計算結果修正)

 以上、どのような見方をしても、相当な赤字になることが容易に想像できます。

 冒頭にも記載したように、私はプラネタリウムが好きなのですが、好きだからこそ無茶なことをして逆にプラネタリウムの運営が厳しくなることは避けてほしいと考えています。確かに公的な事業においては、収支がすべてではありません。例えば福井市の設置の目的が、福井県が掲げる「サイエンス体験型施設」とつながるということに合致していれば、科学教育として意義が大きいことも確かです。もしそのような視点から、赤字の見通しでも実施するという場合には、初期投資の償却を含めて、年間どの程度の赤字を予想しているかなども、きっちり根拠数値とともに市民に説明する必要がありそうです。