社会人基礎力とは?−「前に踏み出す力」、「考え抜く力」、「チームで働く力」の教育の実践−

 後期の授業では、共通教育において現代社会とキャリア教育」という科目を担当しています。この科目には特別な思い入れがあります。多くの学校において、キャリア教育といえば、キャリアデザインを中心に考えることを主としています(なお、一部では就職対策とキャリアの科目を同一視する極端な場合もあるようですが、それは違います。キャリア教育と就職活動対策は別のものです(念のため)。そんな想いもあり、科目名を「現代社会とキャリア」ではなく、あえて「現代社会とキャリア『教育』」としました)。

 「キャリアデザインを考える教育」というのも間違っていませんが、それはキャリア教育のひとつの手段でしかありません。そもそも人生設計を考える上で、その前提を現在の社会において議論することから見直さねばなりません。30年後の日本は今とは確実に変わっています。またおそらく40年近くを占める就業においても、企業の姿は30〜40年経てば、花札からデジタルゲーム機へと商材を変化するように(任天堂)、セラミックからスタートし今や太陽光発電事業にまで多角化するように(京セラ)、個々の会社のビジネスも変容し、また産業や個々の会社も盛衰します。

 つまり「今の日本の姿」や「企業の今の状態」を前提として、個人のキャリア(人生設計)を考えるだけではキャリア教育とはいえないのです。それらは通過点です。

 それゆえキャリア教育で実践したいのは、判断材料としての認識力を高めるための「時事経済の理解」や、時代に左右されない「社会現象を分析し考え抜く力」など時代を問わず必要なリテラシーです。

 よって後期のこの授業では、
[社会人基礎力養成項目]
 前に踏み出す力  考え抜く力  チームで働く力

[その他の養成項目]
 時事経済の理解  ビジネスの理解  キャリアの形成  表現する力  創造する力

の養成を目標にしています。

 社会人基礎力とは、いうまでもなく経済産業省が2006年に定義した「前に踏み出す力」、「考え抜く力」、「チームで働く力」の3つの能力を柱とする「職場や地域社会で多様な人々と仕事をしていくために必要な基礎的な力」のことです。大学の初年次教育などで必須とされるべきものでもあります。この力はまさに30年経って日本の社会が変容しても、おそらく必要とされる力でしょう。「表現する力」や「創造する力」も同様の趣旨で考えています。

 ということで、2回目の授業となる今日は「ビジネスの創業シミュレーション&ロールプレイを通じたグループワーク」を行いました。1班5〜6名のチームで12班、各班ごとに出店候補地を与え、そのお店を運営していく上で必要な「社員の選択」と、候補者からの「アルバイトの採用」、および開店時間、閉店時間の設定、人事のシフト設定、および広報戦略までの一連の出店の計画をグループで作業します。

 
 (前期の試験問題で作成した大学周辺地図…使い回しか!?^^)

 1班と2班、3班と4班という具合に、出店候補地が近い2つの班同士でコンペを行います。立地を考慮した広報戦略、人材の採用、従業員のシフト表を総合的に判断し、良いほうの班に授業点を加点するものです(その他にも加点要素あり)。

 私が評価するポイントは、立地と広報戦略、立地と人材の採用もあるのですが、今回は初めて顔を合わすグループメンバーが自己紹介でどれだけ互いの相手の長所を引き出すことができたかや、グループでの話し合いの進め方、そして考え抜くことです。グループメンバーの長所の発見が、今回のグループワークの経営計画に有機的に結び付く仕掛けを設定しました。

 なお、評価材料のひとつ、ビジネスとしての視点では、例えば立地と広報戦略に関して、1,2班の場合は「駅から住宅地への導線」、3,4班の場合は「比較的売り上げ単価の見込めるビジネス街の顧客を重視した営業時間と営業戦略」、5,6班の場合は「土日は美術館への来場者、平日夕方は学生といった顧客層を取り込むバランス」、7,8班は「大学内での営業と季節変動的な特性」、9,10班は「駅⇔大学という導線からはずれていることをどう克服するか」、11,12班は「地元商店街とのコラボ」、これらを考慮していれば嬉しいと思い、評価するポイントとしています。

 もちろんビジネス教育だけではなく、このグループワークを通じた以下の★要素の醸成(★が多いもの)を狙っています。

[社会人基礎力養成項目]
 前に踏み出す力:★★☆☆☆ 考え抜く力  :★★★★☆
 チームで働く力:★★★★☆
[その他の養成項目]
 時事経済の理解:★☆☆☆☆ ビジネスの理解:★★★★★
 キャリアの形成:★★☆☆☆ 表現する力  :★★★☆☆
 創造する力  :★★☆☆☆

 授業終了後も20分以上残って、かなり頑張っていてくれたグループもあるので、その結果が楽しみです。